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5-10.貧乏令息は美しい人との未来を思って眉を下げる

5-10.


 一方ライハルト自身といえば、縁戚となる人間関係を頭に入れておく以外についてはすぐに講師からお墨付きを貰い放免となっていた。


 当初、貧乏伯爵家で受けさせられる教育程度では公爵家と縁戚となるには足りないと考えられていた。学園での成績がどれだけ良かろうと、実際の生活の中での所作として身についているかどうかはまったくの別物だ。


 実際にライハルトのマナーや知識について確認し、お披露目となる会で挨拶に回りで恥を掻かないで済むようにすること。所作のひとつひとつをラート公爵家の縁戚として相応しいレベルとまではいかなくとも出来得る限り磨き上げることを目標として、スパルタで叩き込む時間となる筈であった。


 勿論ラート公爵家の縁戚関係について少しでも記憶できるとより良いが、それはすぐ傍にいるアレッサンドラがサポートできる。なのでこちらに関しては、もし猶予があれば、という程度のもの。


 どんな話題を振られても、言葉に詰まらない程度の知識と話術と、格下扱いを受けないで済む程度の所作を身に着けさせること。


 それを目標として、ライハルト・グリードに対する当初の滞在中のスケジュールは組まれていた。


 だが、実際のライハルトは噂以上に勤勉であり優秀であった。マナーやダンスにおいて講師からあっさりとお墨付きが出てしまったのだ。


「優秀だとは聞いていましたが、これほどとは思いませんでした」

 スパルタで有名なマナー講師達すべてから笑顔で許可を受けたライハルトのスケジュールは大きく空いた。

 散々ブル侯爵家で教え込まれ、更に現在進行形で学園で習っている最中の現役学生だ。その中でも成績優秀者で通っているライハルトが躓いたりする訳がなかった。


 なのでお披露目までの時間は、ただただひたすら、これからライハルトが身に着ける服を誂える為の採寸や仮縫の為の生身のトルソー、単なるボディと化した。


 なにしろたった二週間で、婚約披露時に着用するアレッサンドラの色を取り入れた礼装をしたてなければならないのだ。しかもアレッサンドラのドレスと揃いで誂えるのだという。「おふたりが並んだ所をイメージしないとデザインすらできない」というデザイナーの意見は尤もだということで、新しい婚約者が決まるまでは、使えそうなレースや少しずつ色味の違う生地を集めるだけしかできていないということで、ドレス工房からやってきたデザイナーもお針子も皆、その表情には鬼気迫るものがあった。

 更にライハルト用には、その一着だけでなく外出着や夜会服、そして普段着までも一通り誂えるという。そこまでお世話になるのはとライハルトは躊躇したが、「アレッサンドラ様の婚約者として相応しい服装を」と求められれば受け入れるしかない。これらは既製品に手を加えるという形にはなるようだが、「アレッサンドラ様が嫁がれる御方ですもの。相応しいものにしてみせますわ」とドレスメーカーの主人に胸を張られてしまった。華美になりすぎないようにお願いはしたが、どんな服になろうと着こなせるようにならねばと覚悟する。


 アレッサンドラの衣装係を交えてデザイナーと打ち合わせを重ねていったライハルトはへとへとだった。

 初日、顔を合せてまず最初に、お披露目会での髪型を決められた。それが決まらねばデザインには進められないらしい。納得したので、買取に出すつもりだったことも交えて諸々相談に乗って貰って、大体の髪型を決めた。

 初日など、反物のまま巻かれた生地を幾重にも肩から掛けられては「違うわね」と駄目だしされるだけで半日が終わった。手や足の左右各箇所すべての細かい採寸も、手袋を作る為なのか各指の長さや太さまでも測ったのは初めてだった。

 とにかく慣れないことだらけで両親とは違う意味で毎日フラフラになっていた。



 そうしてとうとうお披露目会まで三日となった夜。

 明日の朝にはこの別荘を発って王都へ向かうことになっている。

 ライハルトはこの夜も、ひとりで夕食を済ませている所だった。


 供されたのは、寮での食事では絶対に出てこないようなフルコースだ。

 祖父が存命であった頃でさえグリード伯爵家では出たことはない。

 突き出しから始まって、前菜、スープ、魚料理、メインではない肉料理、ひと口だけのソルベ、メインとなるローストした肉料理、サラダ、デザート、フルーツ、珈琲が出る。まさにフルコースだ。

 ひと皿ずつはほんの少量だが、時間を掛けてサーブされるので満腹感が凄い。


「食事のマナーもいいですね。安心しました」

 初日は朝昼晩三回ともマナーの講師と食事を共にしていたが、夕食を食べ終わって珈琲を飲んでいる時にお墨付きを貰って以来、食事は一人で取るのが普通になった。


 寮で出される食事のように早食いしたら怒られそうなメニューだとライハルトは思っていたが、口に出すことは勿論ない。


 ただ、グリード伯爵家にアレッサンドラが嫁入りしてきた時、食生活が合わなくて困るかもしれないと思うと眉が下がった。




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