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5-7.初恋は叶う(即金で

5-7.



「うう。アレッサンドラぁ! 本当にすまなかったー! とうさんが悪かった。まさかの奇跡が起こっただけで、決してわざとじゃないんだよぅ」


 突然横から来た顔を真っ赤にして涙ぐんだラート公爵によってアレッサンドラが奪われてしまった。

 当のアレッサンドラは突然目を潤ませた父から強く抱き締められて、完全に固まっていた。


 けれど、ぎゅうぎゅうと抱き締めてアレッサンドラへの愛を伝える父の姿に笑顔になって、必死に謝る父を宥めた。


「せっかくのいい雰囲気が台無しです、お父様。それに、せっかくここまで威厳たっぷりで恰好ようございましたのに」


 くすくすくす。

 グリード伯爵家にはない温かな父娘の交流が、ライハルトにはとても眩しく尊いものに見えた。


「ずばない、らいはるど殿。はぁ。娘を、よろしく頼む。私はキミの後顧の憂いを断とう」

 鼻をすすり上げる姿はどこかユーモラスだ。だが、その言葉は誰のものより頼もしかった。

「ラート公爵」

「次に会う時は、お義父さまと呼んで欲しいものだ」

 ぱちりとウインクをされて、ライハルトは目を白黒させた。

 目の前で、ラート公爵が精悍な顔つきに一瞬で変わる。つい先ほどまで愛娘への謝罪を繰り返していた男と同一人物とは思えない頼りがいのある背中だった。


 この国で、王族以外に頭を垂れる必要が無い男。それが、ルチアーノ・ラート。この国で最も力を持つ筆頭公爵家の現当主だ。


「さぁ。エリハルト・グリード伯爵代行。この婚約が成立した暁には、ふたりが学園を卒業後すみやかに婚姻を行い、それに伴って貴方には代理権限を完全に放棄して貰う。即刻、ライハルト・グリードがグリード伯爵の位を継承するとこの場で表明を。そして、ライハルト殿の伯爵位継承が済み次第、エリハルト・グリード並びにデイジー・グリード両名は伯爵邸から出る約束を。ただし存命中は現在の官吏職にて得ている給金と同額が年金として支払われる。領地内で官吏の仕事を続けるかどうかは本人次第ということにしておこう」


 つまり、働かなくともこれまでと同じ金額が毎年受け取れるし、これまでと同じ仕事を続ければ手に入る金は倍増すると提示する。

 正に飴と鞭だ。「今すぐに了承すれば善し」と迫る。


「こ、子供の婚約には親の承諾が必要だ。この婚約をおれが断る事だってできるんだぞ」

 対して、エリハルトが口にできたのは見苦しいほどの負け惜しみだった。子供じみた嫌がらせでしかない。


「ご自由に。どちらにしろ、エリハルト・グリードの伯爵代行の権利は、ライハルト・グリードが学園を卒業して爵位を得るまでの間のみ王宮から認められた暫定的なものでしかない。それですら先代であるロイハルト卿に対する恩赦の意味が大きいのだ。王宮へ異議を唱えでもしてみたらいいんじゃないか。王宮は、すぐにでもライハルト殿に爵位を与えて下さるだろう」


 そうすれば、親の許可など要らなくなる。


 言葉に出していない続き、その意味が理解できたのか、エリハルト・グリードが反論の言葉を無くしたのを見て、ラート公爵が止めを刺しに掛かる。


「最後のあがきで、それでも婚約を拒否してみるか? 構わんよ。但しその時は、あなた方に渡す年金はない。そして私は、ブラン伯爵がライハルト殿の後見人として立候補される際の推薦人となろう」


「ブラン伯爵が……私の、後見人に?」

 呆然と呟くライハルトに向けて、ルチアーノは笑いかけた。


「『あの時、実の父だからと譲歩するのではなかった』とブラン伯爵は悔やまれていたよ。あの方はライハルト殿の祖父とは親友だったそうだね。今回の見合いに関しても、とても喜んで下さっていた」

 ルチアーノはそこまで言うと、その表情を元の厳しいものへと戻してエリハルトに向き直る。


「なぁに、私が推薦すれば今すぐにでも裁定は降りる。大丈夫だ。元々、伯爵代行としての仕事も権利も何一つ貴方には与えられていなかったのだから。安心したまえよ。そうそう。ライハルト殿の後見人ですらなくなれば、貴方はすぐにでも代行としての仕事も失い、家から出されることになるだろう。精々頑張って自分達の生活費を稼ぐがいい」


 その言葉で、ついにエリハルト・グリードは床に力なく頽れた。


「婚約を拒否したいか?」


 フルフルと急いで顔を横に振るエリハルトの姿を、先ほど娘に見せた甘い顔と全く違う冷たい瞳で見下ろしたラート公爵が、笑っていない目をしたまま口角を上げて笑みを顔に張り付けた。


「では。喜ぼう。我が最愛の娘アレッサンドラの婚約は為された!」



「……お父様、本日は初めての顔合わせです。細かい詰めもなにもしておりませんし、なによりまだ婚約の誓約書にサインもしておりません」


 突然の宣言に慌てたアレッサンドラが止めに掛かるも、ルチアーノはまったく躊躇せずに言い放つ。



「気にするな! ……それとも、この婚約は断るか?」






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