4-6.貧乏令息に届いた手紙
4-6.
ひさしぶりに金の無心以外の手紙が届いたと思ったら、父が王都へとやってくるという先触れだった。
酔っぱらって書いたのかと思うようなミミズがのたくったような文字を解読していけば「今月最後の週末、会いに行くから予定を開けておけ」とだけ書かれていてため息が出た。
「今月最後の週末って、明日じゃないか」
安い料金で手紙を送ると、極稀にそれほど遠い場所ではなくとも異様に日数が掛かってしまうことがある。
ギリギリであろうとも当日や過ぎてから届いたのではなかっただけマシか思いつつ、帰ってきたばかりの仕事場へ戻る為に寮管室へと足を運んだ。
ブル侯爵家で働いていた賃金を貯めていたものの、それだけで学園での生活費が全て賄える訳がなく、ライハルトは授業が終わった後と週末に働きに出ていた。
働くといっても、生徒が得られるバイトは、学園で認められている場所に限られる。
学園の備品の手入れ係。騎士団の雑用係。王立病院でひたすら洗い終わった包帯を巻き取る作業というものもあるらしい。
とにかく貴族の子女でもできる程度の内容で、勤め先も安全で安心な場所ばかりだ。
地方から出てくる下位貴族には金銭的に余裕のない者も多い。
授業料は無料だとはいっても食費や被服費など細々と出ていく出費まで家の援助が回り切らない生徒の為に、学園で斡旋しているのだ。
勿論、上位貴族と言われる伯爵家以上でその制度を使っている生徒など、ライハルトは自身以外には知らないが、そこを恥じる気持ちなど今更だ。
寮管室へ着いたライハルトは目の前の呼び鈴を鳴らし、声を掛けた。
「失礼します。108号室ライハルト・グリードです。外出のお願いに参りました」
「おや。さっき帰ってきたばかりじゃないのかい?」
中から返事を返してくれたのは、この寮の管理を長年勤めている寮管リーンだった。
オールバックにされた髪はまっ白だ。けれど肌の血色はよくて艶もある。
色付き眼鏡越しに向けられる視線はどこを見ているのかイマイチわからなくて不安になる時もあるが、隠し事はずばりと言い当てるリーンに見えないモノはないのかもしれないと言われていた。
ちなみに、彼が何歳なのかは、寮生の長年の謎とされている。
「先ほど受け取った父からの手紙に明日来ると書いてありまして。予定を開けておけと」
読み終えたばかりの手紙を差し出せば、そこに書いてある文字の汚さに、リーンは笑い出した。
「ははは。相変わらずキミの父君はおおらかなようだ。いや、大雑把だと言いたい訳じゃないよ?」
長年ここで寮管を勤めているリーンは、勿論ライハルトの父親であるエリハルトとも面識がある。
在学中には父もここでお世話になっていたらしい。
「そうか。では仕事先に連絡を入れないといけないんだね。いいよ、こっちで伝えておこう。君はまだ夕食も取っていないだろう? 育ち盛りの少年が、食事を疎かにしてはいけない」
育ち盛りという時期はすでに過ぎているとライハルトは思ったが、腹が減っているのは確かだったので素直にリーンの申し出を受けて礼を言った。
「ありがとうございます。『今月最後の週末を開けておけ』と書いてあったので、もしかしたら明日だけでなく明後日も無理なのかもしれません。その辺りがよくわからなくて。ハッキリしなくて申し訳ないです」
頭を下げるライハルトにリーンは笑顔で軽く了承すると、「今行けば、お替りもできるかもしれんぞ。早く食堂にいきなさい」と笑って促した。