3-5.仲間たちの誓い
3-5.
「な、何だあの人」
「あぁ、凄かったなぁ」
「だな」
ベントが吃驚した顔をして変に感心している様子なのが、ライハルトには面白かった。
ブル侯爵家で単なる使用人として振舞っていた時、極稀に開かれた晩餐会やお茶会の席で客として招かれた貴族の中には似たような態度を取るものもいて何度か絡まれた事のあるライハルトとしてはその対処に慣れていたが、最初の頃は確かにベントのような気持ちになった気がした。
「おい、大丈夫か。ライハルト」
心配したスイが寄ってきて声を掛ける。
子爵家の三男であるスイは、隣の区画に座っていたのだ。上級生、しかも格上の伯爵家の令嬢から絡まれているのがライハルトであると気が付きはしたが、割って入ることもできずに、オロオロしながら見守っていた。
「あぁ、アレくらい、よくある事だ」
「よくあるんかよ」
「顔のいい男は絡まれ易いのか。大変なんだなぁ」
「俺、横にいるだけでチビるかと思った」
汚ねぇ、と皆で笑う。
突然の断罪が始まった時、近場にいた生徒は遠巻きにしたが、相手がまがりなりにも謝罪を口にして足早に去っていき、スイが近づいて話し掛け笑が出た辺りですっかり普通の距離に戻っていた。
会場を出てすぐのところに、式前には無かったクラス分け一覧が張り出されていた。
張り出された表に、自分の名前を見つけようと指差しまわる人混みの中、ぽっかりと空いた空間があった。
その中心に立つひとりの女子生徒へ、目が吸い寄せられる。
まっすぐな黒髪をした、美しい立ち姿。
「……なぁ。アレって、さ」
ぽつりとスイが呟いた。
「……あぁ、アレは、アレッサンドラ様だな」
俺が言葉を引き継げば、言いたいことはそれじゃないという顔をしたスイが振り向いた。
視線を合わせてベントと一緒に頷けば、スイは少しだけ黙って、力強く頷いた。
「あぁ。憧れの姫アレッサンドラ・ラート公爵令嬢。想像していた通りの、美しい人だな」
ライハルトとベントも、「あぁ、本当だ」と頷いた。
三人の視線の先には、綺麗な立ち姿の令嬢が一人。
細い頤を、少しだけ上に向けて、視線を上下左右へと動かしている。壁に張り出されている名簿から自分の名前を探しているようだ。
首を動かす度に、黒い髪が、さらりと後ろへ流れた。
――あの黒髪が、動きに合わせてしなやかに舞う、その姿を俺達は知っている。
負けず嫌いで、めげなくて。信念を持って、まっすぐに自分の目標に向かって駆け上がっていくような強さを持った仲間だった。
脳裏に映るその姿を想って、ライハルトの胸の奥がきゅうっとなる。
同じ訓練所で鍛錬を共にしていた懐かしい仲間の名前は、三人……いやこの後に会う同じ訓練所に通っていたどの仲間の口からも、出ることはなかった。