1-11.新グリード伯爵
1-11.
図書室で本を読み漁ったライハルトは、父エリハルトはグリード伯爵位を継ぐことを承認されないのではないかと想像していた。
それどころかグリード伯爵家自体が取り潰しになり爵位の返上を申し付けられても仕方がないとさえ思っていた。
しかし、父ではない縁戚から適任者を連れてくることを提案されることすらなく、父エリハルトはグリード伯爵となった。
名前だけは、と付け加えるべきかもしれない。
領地管理の差配を揮うことは許されなかったのだ。
父エリハルトに許されたのは、領地における様々な資料を纏め、それに関する提言をすることまで。そこから先は、資料を王宮へと提出し、監査を受けてようやく資金を動かせる。
本来伯爵家の収入は、領民から納められた税収から国税を納入した残りから領地運営に必要だと考えた資金を除けた残りとされる。しかしグリード伯爵領の収入は基本的にほぼすべてを借金の返済に充てることとされ、代わりに国から地方官吏と同額が給金として支払われることとなった。
この給金も、グリード伯爵家の領地収入から出ているので、同じコトではあるのだが、そこに自らの判断で資金を振り分けたのではなく『王宮からの指示に従う事』という一文が入ることで、処罰とされたのだ。
父エリハルトが行った伯爵家の総資産を当主に無断で担保として差し出し金を借りるという行為だって十分詐欺行為だ。
いくら自分は詐欺グループに騙された被害者だと訴えようとも、それがなかったことになる訳ではない。
そして多分だが、王宮が間に入ってくれなければ、金を貸した相手に身包み剥がされて、ついでに伯爵家の人間は全員どこかに売り飛ばされてしまっていたに違いない。
曾祖父ウィリハルトの作った借財もまだ返し切っていなかったのだ。それなのにこれだけの金を貸し付けてくれる金貸しなど、まっとうな訳がない。
祖父ロイハルトは、真面目で誠実で、誰からも好かれていた。
その祖父の努力を無に帰す行為を受け入れられなかった誰かの温情が、今回の父の官吏扱いだったのだと思う。
返済には領地の収入を王宮が管理して行うことになっていたので、地方官吏としての給金で食べていくことは出来るのだから。
ライハルトとしては「随分寛大な処分だ」と思ったが、父エリハルトは「私は被害者なのに」とかなり不服そうだった。
けれど祖母から「王宮が間に入ってくれたからこのグリード伯爵家は残して貰えたの。本来なら爵位を返上して、全ての資産を売り払っても賄いきれないほどの借金なのよ」と諭されると、恨みがましい視線を向けながらもそれ以上、恨み言を口にするのは控えたようだった。
伯爵とは名ばかりの父エリハルトの仕事ぶりは、あまり褒められたものではなかったようだ。
ただし、父に金を貸す者は誰もいない。ツケで飲み食いさせることも禁じられていた為、博打や酒に逃げることもなかった。提供するのは勝手だが、貸しても何も帰ってこないことが確定しているのだ。誰も父へ融通しようとしなかった。
当然だ。
正直、領民たちが皆、この地を捨てなかっただけでも感謝するべきなのだ。
他領へ移って一から生活の基盤を作り直すのは大変だし、国が伯爵家を破産から守っているという保障があったからこそ、今でも領の税収が見込めるのだ。
だがエリハルトは今でも自分が受けた処罰に納得し切れていなかった。
その鬱屈は、すべて息子であるライハルトに向かっていた。