最終番「心の声」
挿絵は本文と同じ事ですが挿入したかったのでさせていただきました。
頭で深く考えたわけじゃない。
自分でもなんて説明したらいいか分からないが、無意識にも近い行動。
気がつくと学校を飛び出し、電車に飛び乗りバスに乗り。
息を切らし立っていたのは思い出の1つ。
空港の前だった。
そう…。
今まで心の声なんて、やまほど言っていた。
だけど心の声を使い私の声が消え始めたのは、この日以降。
心当たりがあるとすれば、きっとこれだけ。
携帯についたストラップを見ながら、そう考えていた。
中に入り向かった場所はお土産コーナーの端。
人が全くいない、その場所に前と変わらず座っていたおばあさん。
「おやおや、あんたはこの前の…もしや注意したのに失ってしまったかい?」
その言葉だけで充分だった。
やはり原因は思っていた通り。
ここまで来ると、もう頭で考える事などなくなっていた。
よくよく考えてみると私が強気になっていたのは、この日だけだったかもしれないが、そんな事はどうでもいい。
色々ありすぎて頭で考えて喋るのもめんどくさかったんだ。
心で伝えた言葉は1つの賭け。
"単刀直入に言います。 言葉が汚くなってしまうのはごめんなさい”
その心の声が聞こえたであろうおばあさんはニッコリと微笑み頷く。
それを見て私が人生で1番…今さっきよりも大きな声で叫んだんだ。
「私の声を返せ!!」
ちゃんと言えた。
言いたい事を言うべき音は消えていなかった事に少しだけ安心した。
人がいないわけがない。
大声を聞き一瞬だけ辺りは静寂に包まれたが、すぐに賑やかな声はし始めた。
おばあさんは何も言わずに、しばらく目を瞑っていたが目を開き私の方を見ると口を開いた。
「ちゃんと…大切なものが分かったならもう大丈夫」
そう言いながら私の手に持っている携帯電話を指差す。
確認すると最初に綺麗だと思った淡い光が消えていた。
「大切なものを忘れるんじゃないよ」
私「は、はい!」
「声だけじゃなくてね…大切なら伝えなきゃいけないよ」
その言葉を聞き、きっと顔が赤くなっていたんだろう。
私の顔を見ると再びニッコリと微笑み店の奥へと入っていってしまった。
その笑顔だけでおばあさんは良い人だったんだと分かった。
だって…彼と同じ優しい笑顔だったから。
"ありがとう"
心ではなく声にしてお礼を言えた。
そしてこの時、決意したんだ。
・・・
日も暮れだし夕暮れが眩しく光る帰りの電車、携帯に届いた1通のメール。
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From:あかり
本文:
彼から聞いた。
多分、彼の様子を見る限り自分が酷い事言ったなんて嘘っぽかったけど。
だって私に見破れないものなんてないんだからね(笑
友達なんだから何があったか話すの強制。
話すまで私はしつこく聞くからね!
そういう事であの場所で待ってるから!
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何で私の友達は、こんなに優しい人が多いのだろう。
涙が出そうになった目を拭い電車を降りて向かったのは、あの場所。
中庭の木の下、私たちのお気に入りの場所。
もう全部話そう。
あかりに隠し事なんてしたくないという決意を胸に木の下で待っていた。
しかし聞こえた声は思いがけぬ声。
「よっ」
そう言った声と同時に彼が木の上から降りてきた。
私はあまりにも予想していない事が起こりビックリしてすぐに木から離れてしまったんだ。
啓介「何だよ。 そんなに驚かなくてもいいだろ…ってこれ前もなかったか? ハハ」
私「な、何でここに…」
啓介「小池さんが、信じてあげるからここで待って音白に謝れって。 メールしておくって言ったけど届いた?」
私「う、うん」
またあかりに仕組まれた事だったが、この時ばかりは感謝していたんだ。
"大切なら"
そう…。
私にはもう1つの決意があったから…失いたくないものに気づけたから…。
もう1つの意味で特別なこの場所で…彼と初めて会話をしたこの場所で。
啓介「よく分かんないかもしれないけど、音白ごめん」
深く頭を下げた彼に私は慌てて大丈夫、啓介君は何も悪くないと言いながら自分も頭を下げた。
2人で頭を下げ2人で顔を上げる。
それと同時に笑った彼を見て私も可笑しくなってしまった。
何が笑えるのかなんて関係ない。
ただ…笑顔になる事で通じ合えたんだ。
…。
…。
笑い声が止み静寂が訪れる。
2人で空を見上げ流れていく雲を見ていた。
いつもなら無心のような会話がないが落ち着く彼との空間。
しかし私の心臓は破裂しそうなほど早く動いている事が分かる。
握り拳の中で滲む汗。
額からもその内流れてきそうな程に熱くなっている体。
何度も唾を飲み込み、頭の中で言いたい事をイメージしている。
きっと、あの不思議な事がまだ起こっていたなら、とっくに今の気持ちは伝わっているだろう。
結果がどうであれ後悔なんて…いや…私はきっとするだろうが、そんな事を考えていては、あかりにも言われた言葉。
私の準備はいつまでも終わらないのだ。
彼もまた言っていた。
想っている事は言わないと分からない。
そうなんだ…。
私たちは伝える事が出来る。
伝えられる"声"という大切なものを持っているんだ。
大切なもので大切な人に大切な事を言わなければ想いは叶う事はない。
大切だから…。
私「あ、あ、あの…そ、その…わ、私…あの…」
私の声が聞こえた彼は私の顔を見てくれている。
何度も顔を背けようと思ったが、これだけは背けちゃならない事だと自分に言い聞かせた。
私「あの…そ、その…」
だけど、どうしてもその先が出てこない。
言いたいけど言えない。
彼には沢山の勇気を貰ったけど、やっぱりまだ私はその言葉を言うほど強くは…。
…。
啓介「…俺も音白の事、好きだ」
…。
時間が止まり風がやみ全ての流れが静止した…気がした。
突然の言葉に何が何だか分からなくなり舌はいっそうまわらなくなる。
私「え! "俺も?" な、な、何で! ス、ス、ストラップはも、ももう元に…」
啓介「ストラップは元に? 相変わらず音白は時々よく分かんないけどさ。 だって…」
ほんの少しなんだ…。
その時、私はほんの少しだけ想っている事が顔に出てしまうという特徴に…。
"あなたの事が好き"
「音白の顔を見れば嫌でも分かるっての」
…。
"心の声" に感謝した。
…。
「お、おい何で…な、泣くなって」
大切な想いは届く…2人を繋げる大切な声で…。
はい!
という事で、ここまで読んでいただきありがとうございます。
告白して終わりという、これからでしょ?みたいな意見もあるかと思いますが、これで最終番です。
ちなみにお気づきの方はいるか分かりませんが、この直後どうなったかというのが第23番「暗雲」の最初なわけです。
泣いた音白を啓介は抱きしめ、その手が離れたら今度こそ音白は自分の声で伝えたのかな?
まぁどうなんでしょうね…(笑
そしてお知らせを1つ。
これで最終番ですが、次回、番外編として音白と啓介のその後を描き、それで完結とさせていただきます。
まぁ実質の最終はこの話なので最終番とさせていただきますが。
では、本当に2人の物語の最後、次回も読んでいただけたら嬉しいです。