第30番「大切な…」
「け、啓介君…」
多分、誰にも聞こえないであろう小さな声で私は彼の名前をつぶやいた。
そしてこの場にいる人は誰でも聞こえるであろう声で香夏子が彼の名前を呼んだ。
香夏子「李河! またお前かよ!」
啓介「人が昼休みを満喫してたら、下から聞き覚えのある声が1つ2つ。 何かと思ったら、またって言うのはこっちの台詞だっつうの」
そう言いながら私の所へ歩いてきて携帯を手渡してくれる。
また彼に助けられた。
いつもいつも感謝の言葉では言い表せない程の事ばかりだ。
馬鹿の1つ覚えのようで悪いが、毎回の言葉。
感謝の言葉を言いたかったが…。
私「あ・がと・」
案の定だった。
彼に聞こえないように小さな声で確かめてみた言葉は無残にも消えていた。
私がさっき心の声を言ってしまったからだ
そう…。
今までも声が消えるのは "誰かに向けて心で言いたい事を思ったとき" …相手に私の心の声が理解できると同時に音が1つ消えていたんだ。
これでは何を言いたいかが分からない。
私にはお礼を言う事さえ出来なくなっていた。
私は彼が香夏子達の方を向いて私を見ていない中、頭を何回もさげて感謝の気持ちを表していたんだ。
それがただただ…悲しかった…。
啓介「何度も何度も…音白が何かしたか?」
香夏子「何かしたかどうかなんて関係ないんだよ」
久美「簡単に言えば…私たちのため?」
ネネ「そうそう。 ただ音白をからかいたいから?」
そんな返事を聞き彼は1度、ため息をついていた。
香夏子「だから邪魔すんなよ。 お前がさっさと消えてくれたら問題解決」
それを聞き彼はもう一度、ため息をつくと今でもハッキリと覚えてる事を言ってくれたんだ。
啓介「何も解決しねぇよ。 お前らにやめろとは言わない、どうせ言っても解からないだろうしな。 だけど…だから1つだけ言っておく」
"お前らが何かするなら俺が音白を守る。 ずっとな"
啓介「それだけは解かっとけ」
悲しくて涙が出そうになった事は何度もある。
だけど嬉しくて涙が出そうになった事はきっと…この時が…。
香夏子「な、何だよお前…何なんだよ…いつも…いつも…。 カッコつけてるつもりかよ…全然カッコよくねーつーの!」
怒鳴りながら何処かへ消えていく3人。
事は無事についたのだろうか?
啓介「怪我ないか?」
そう言って私の様子を見ながらいつものように笑顔で声をかけてくれる彼。
そんな彼を見ているとお礼も言う事が出来ない自分がどうしようもなく情けなく…。
そんな情けなさから込み上げる感情と、さっきの言葉の嬉しさが重なり頬を流れ落ちるのは特別な涙。
2つの感情が重なり止まらない。
そんな姿を見られたくない私は涙を隠すように頭を何度か深く下げ足早に彼の元から立ち去ってしまった。
失礼な事は自分でも分かっている。
だけど、このままあそこにいるのは無理だったんだ。
途中で声が聞こえたのも分かった。
彼だけじゃなく、もう1人の大切な人の声。
「あ! 京子! 探したん…京子?」
はっきりと聞こえたわけじゃないがすれ違う時にそう聞こえた。
そしてその後に私にもかすかに聞こえた声はあかりの怒鳴り声のような大きな声だった。
泣いていた私と、私が走ってきた方にいる彼…後であかりと彼に謝らないと。
教室に戻るわけでもなく…。
涙は止まっていたが泣き顔で私が向かうべき場所。
向かわなきゃ行けない場所。
こんな私なんかでも大切なものであると気づけたから、取り戻さなきゃいけないと心から思ったから。
足が…心が…向かった場所は、あの空港だった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
1回でまとめても良かったんですが長くなってしまうので分けます。
という事で次回、最終番です。
執筆の方はほぼ出来てるので、そこまで間はあかずに投稿できると思いますので…。
次回も読んでいただけたら嬉しいです。