第22番「ストラップ」
2度目のあとも彼は1度目と同じように飛行機と一緒に何処かへ飛んでいってしまっている私の気を、現実に戻そうと話をしてくれた。
その話を聞きながら2Fへと降りる階段へと向かう。
啓介「そろそろ11時半…ちょっと早いけど、いい機会だし昼飯もここで食べてくか?」
私「え…あ…」
確かにいい機会だったし、空港内の飲食店にも興味があった。
だけど…不安と期待、半々くらいの気持ちを胸に私が悩んでいると…。
啓介「ハハ。 じゃあこっちだ」
"気になる"
そんな私の表情を見たのであろう彼は、それが私の答えと解釈し歩いていってしまった。
顔に出てたということは不安と期待は半々…だと思っていたが、期待が少しだけ勝っていたのだろう。
今さら断る事も悪いだろうし、興味もあったからと少し小走りで彼の後をおった。
お店の雰囲気からすると和食のお店だろうか?
店先にはメニュー例として、ざるソバが展示されている。
お昼時にはまだ早い事もあり、店内はすいていた。
いらっしゃいませと笑顔の優しいおばさんが、水の入ったコップと一緒にメニューを持ってきてくれたので、それを開き見る。
1番初めに目に飛び込んだのはドリアだった。
おそばや天ぷらの中、何だか1つだけ場違いなメニューのせいだろうか?
それが目をひいた要因かもしれない。
しかしメニューを見ていくと、さらに気になるものを発見してしまった。
「とんかつラーメン」
私(な、何これ…)
見る限りでは醤油ラーメンの上にナルトやねぎなど普通にありそうな具材。
それを押しのけるように1つ丸ごと、とんかつが乗っている。
それのせいで麺は見えないほどだ。
初めて見るその組み合わせに興味はそそられたが流石に頼む気にはなれなかった。
それは量的な問題と、このメニューの中、それをチョイスすると言う選択肢、2つの理由からだ。
しかし、そんな私をよそに彼は言ってくる。
啓介「音白、これ珍しいだろ? 美味いしお勧めだぞ」
そう言って、とんかつラーメンを勧めてくるのだった。
私「あ…えっと…」
…。
2人で同じメニューをすする音。
味は中々
しかし只でさえラーメンは油っぽい上に、その上に…。
流石に後半はくどかった味、食後、しばらく胸やけが酷かった。
胸焼け、そして満腹なお腹。
少なからず足取りが重い私だったが彼はビックリするくらい平気そうだった。
流石は男の人と言う所だろうか?
そんな事を考えながら空港1F。
空港を出る前にお土産売り場へと向かった。
言い方は悪いかもしれないが、空港をモデルにした絵がプリントされた包装紙。
小物用品なども飛行機をかたどった物が多い。
しかしお土産というのは、そんな単純なものに興味をそそられてしまうのである。
特に買う予定はないが、私は目を輝かせ品物を物色していた。
彼もまた飛行機の模型だろうか?
ガラスケースに入った展示品を角度を変えては見ているようだ。
何とも微笑ましい、子どものような姿に自然に笑みがこぼれてしまう。
しばらく見た後お土産コーナーを出ようとした私たちに声がかかる。
「そこの」
声のする方をみるとお土産コーナーの端。
よく広い売店などはレジが何個もあると思うが、そのレジは何とも場違いな端の方にあった。
今もそうだが、そのレジを使う人は滅多にいないだろうなと感じるほどだ。
「どうだい? 折角だから1つ買っていかないかい?」
そう言うのは、顔は化粧をしているが小じわが目立つ髪も白髪交じりのおばあさんだった。
眼鏡をかけ、レジの中、イスにこしかけ手には何やら持っている。
どうやらそれを勧めているみたいだ。
それはさっきまで見ていた他のお土産と特に変わった所はない飛行機のストラップ。
しかし何だか淡く青色に光っているようにも見えて少し綺麗だった。
啓介「だってよ? どうする、音白? 普通のストラップみたいだけど」
私「…綺麗」
私がボソッとつぶやいた声を彼は聞こえたのか、おばあさんの所へ行った。
私「え…」
啓介「はい、いい記念になるだろ?」
笑いながらストラップを私へと手渡してきてくれるのだった。
私「え…お、お金…」
私が財布を出そうとすると彼はいいからいいからと言い1つのおもちゃを手に取った。
啓介「じゃあ代わりにこれ買ってくれよ」
彼が手にしたのは手のひらサイズの飛行機のおもちゃ。
底にタイヤがついており、机の上などに置き、後ろに引くと勝手に走り出すタイプのものだった。
値段は明らかにストラップより安いだろう。
何だか悪い気がしたが、彼がそれがいいと改めて言ったので私はそれをおばあさんへと差し出しお金を払うと彼に渡した。
啓介「ありがと。 いい記念になる」
彼が笑うのを見て私も笑えた気がする。
その帰り、彼は今日の事を振り返りながらまた、飛行機について話してくれた。
私も少しではあるが行く時よりは落ち着き、質問もしたんだ。
家につき少し迷ったが携帯につけたストラップ。
それを見ていると自然に顔が緩んでしまいそうになる。
このストラップは色んな意味で記念になるだろう。
その日も彼からメールが届き、その返事を返し布団へと入る。
1つだけ…。
気になる事は彼への代わりの物を買うときにおばあさんが言った一言。
「頑張りな。 大切なものを失わないように」
どういう意味かは疑問ではあったが考えても私には分からなかったので深くは考えはしなかった。
朝、起きればまた一週間が始まる。
この時はまだ、いつものような何気ない一週間が始まるとしか思っていなかった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
実際に空港にあるらしいトンカツラーメン。
空港以外でも場所によってはあるらしいですね。
自分は食べた事はないんですが。
ではまた次回も読んでいただけたら嬉しいです。