第15番「飛行機」
屋上。
校舎を説明したので分かると思うが屋上も同じく凹の形。
特にこれといって珍しい物があるわけでもなく、殺伐とした風景。
掃除もされるわけでもないので、お世辞にも綺麗とは言えないこの場所に好き好んでのぼってくるなんて人はあまりいない。
唯一、ここに来て良かったな〜と思えることがあるとすれば…。
啓介「やっぱりいい景色だな」
屋上、高い場所から眺める広々と雄大な街。
すぐそこにあるような錯覚を起こす空、雲。
静かな空気が時の流れを錯覚させる、この景色を見る事で来てよかったと思える。
私が鉄柵に手をかけ遠くの景色を見ていると彼は地面の汚れをはらい仰向けに寝転びだした。
しばらく空を眺めた彼は目を閉じ、今度は空気を感じ始めたようにも見えた。
そんな彼を少し羨ましく思い、少し離れた場所で私も同じように寝転んで見る。
彼が片目でそんな私を見てたのは少し恥ずかしかったんだけれど。
私(気持ちいい)
啓介「気持ちいいな」
慌てて彼の方を見る。
私の心の声が口に出てしまっていたのかと思いビックリした。
変わらず目を閉じ空を見ている彼を確認すると私も同じように空を見て目を閉じた。
どれくらい経ったのだろう?
ゴゴゴと鳴る音が聞こえたので、ふと目を開けると彼はあぐらをかき、ポカーンと口をあけ空を見ていた。
何だろうと思い同じように上を見る。
そこにはさっき聞こえた音の正体。
特殊な雲を作りながら空を走る飛行機が悠々と飛んでいた。
飛行機は嫌いではない。
いや、むしろ大好きだ。
ちっぽけな私を未知なる地へと運んでくれる大きな鳥。
初めて見る土地、大地の広さを見ると自分なんて、本当に小さく見える。
そんな希望を胸に空高く舞い上がり雲と共に空を翔る飛行機に私は小さな頃から憧れ続けていたんだ。
そんな事を考えている私もきっと彼のようにポカーンとしてしまっていたのかもしれない。
隣の方で聞こえる何だか騒がしい声にしばらく気づかなかったんだ。
啓介「おい! おい! 音白! 空、見てみろよ。 飛行機が…あ」
私「え? ご、ごめん」
彼が何か言っていたような気がして何も聞こえていなかった私は慌てて謝った。
だけど彼はいつものように微笑むと…。
啓介「いや。 やっぱり音白も飛行機、好きなのか?」
"やっぱり音白も"
やっぱり?
やっぱりと言うと私が飛行機が好きだということを感じていたという事だろうか?
何故?
もしかしすると今、私がそれほど口でもあけて飛行機を見てしまっていたのか…。
そして私もと言うことは彼も飛行機が好き?
いや、さっきも口をあけ眺めている位だし相当、好きなのではないだろうか。
勝手に彼も飛行機好きと決め、私はコクンと首をさげ彼の問いにうなずいた。
啓介「そっか〜そっか、そっか。 飛行機っていいよな。 見た事がない世界へ連れてってくれる。 俺が見たことない景色、行った事がない場所に」
学校でもいい場所がないか探す彼。
そんな彼だからこそ、その言葉は納得できた。
啓介「音白は何で飛行機、好きなんだ?」
まさか私の理由を聞かれるとは思って…いや少し思っていたが…。
ハキハキと説明するのは無理だったけど、私の話を相づちを打ちながら聞いてくれる彼。
そんな彼にゆっくりと少しずつ私がさっき考えてた事を今度は口に出して伝えた。
啓介「何か似てるな。 俺と」
どことなく照れ笑いをした彼を見て私も何だか照れてしまった。
そして彼はその照れを隠すように飛行機について色々と語ってくれたんだ。
この時、もしかしたら気づくべきだったのかな…。
だけど私自信も凄く興味があった飛行機についての話。
そんな彼の話を夢中になって聞いていたから気づけなかったんだ。
夢中になって話す彼と夢中になって聞く私。
夢中になっていた昼休みが終わりを知らせる5分前の予鈴がなると私たちは少し慌てて立ち上がった。
屋上から地上へと降りる梯子の前。
ここで聞いた空気の音と彼の話。
いつの間にか心がとても安らいでいた。
今なら何だか素直に言えそうな気がして口が開いたんだ…。
「あ、あのね…勉強…」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
という事で次回、ついに勉強会です。
と言っても、勉強会の"勉強"の部分については大まかに流しますが。
ではまた次回も読んでいただけたら嬉しいです。