第13番「覚えてな」
あかり「それじゃあ頑張ってね」
そう言うとあかりは自分の教室がある校舎へと歩いていった。
それを棒立ちで見ながら私は考える。
言うにしても彼が何処にいるかが分からない。
教室にいない事は確か、そしてこの中庭にもいない。
だとすると…。
A〜C組の校舎、廊下を歩きながら私は考えられる場所を思い浮かべていた。
確か彼は校庭、プール、トイレ、そして中庭…。
私が聞いた中ではここに行った事があるらしい。
トイレは流石にないとして…。
私(校庭かな? 今日は天気もいいから)
単純すぎる推理をした私は早速、校庭に向かおうと歩いてきた道を振り返る。
ドンッと音がなった。
最悪だ…。
香夏子「ネッシー。 痛いんだけど」
振り向いたと同時に香夏子と体がぶつかった。
普段、感じている目からの威圧感が私に向けられる。
ぶつかっていないネネと久美の威圧感も勿論、私に向いているんであろうが、それは感じるだけで香夏子以外を見る余裕なんてなかった。
香夏子「痛いんだけど」
どっちが悪いなんて関係ない。
とにかく痛いと言われているなら。
"謝る"
"謝りたい"
"謝らなくちゃ"
心ではそう思っているのに声が出ない。
慌てているからだろうか。
恐怖感からだろうか。
そんな事も今はどうでもいい。
とにかく声を、声を。
ネネ「ネッシー、何してんの?」
久美「口をパクパク動かして何? 鯉のマネ? 餌でも欲しいわけ?」
香夏子「ふ〜ん。 こんな時でも喋らないんだ。 餌か。 それじゃあ謝る気もないみたいだし餌でもあげようか?」
心では謝る気持ちは充分ある。
しかし口が動くだけで声が出ない。
きっと顔には出てるはずだが出てようが出ていまいが関係ないのだろう。
彼女達は声が聞きたいのだ。
それは私の声が聞きたいのか謝罪の声が聞きたいのか…。
そ、そんな事はどうでもいい。
私は何を考えているのだろう。
それよりも他に考える事はあるんだ。
エサ…エサをあげるって…何?
いや、何となく想像は出来る。
今までの言葉での命令ではなく…何らかの…分かりやすく考えると言葉の暴力ではない事じゃないだろうか。
右手を香夏子に捕まれ連れて行かれそうになったその時だった。
「どうした?」
後ろから声がした。
私は振り向く事は出来なかったが誰なのかは分かった。
それは声からでもあり、もう1つは香夏子が口に出したから。
香夏子「何だよ。 李河。 お前には関係ないだろ」
香夏子は彼を苗字で呼ぶんだ。
いや、2人はそれほど関係があるわけでもないし、むしろ名前で呼ぶ方がおかしいだろう。
啓介「まぁ関係ないけど何かさ。 ちょっと音白に用事あるから、いい?」
後ろで聞こえた、その言葉。
それに動揺して私はまだ振り向きもせず香夏子の首のあたりを見ている。
私に用事?
一体何だろう?
香夏子「チッ。 音白なんかに用事なんてあんのかよ?」
啓介「まぁ色々と。 それこそ茂技には関係ない事…だろ? ハハ」
香夏子「ハッ。 お前もやっぱ変わりもんだな。 まぁ私達、暇じゃないから譲ってやるよ」
助かった…のだろうか?
彼の用事というのも非常に気になることではあるが考える前にお礼を言いたい。
しかし、わずか数分の間に起こった出来事が私には幾つもあるような気がして、まだ冷静になるにはしばらくかかるだろう。
…。
いや、訂正しなければならないようだ。
冷静になるのは、もしかしたら無理かもしれない。
歩き出そうとした香夏子が私の耳元でボソッ言った事がはっきりと聞こえてしまったから。
香夏子「覚えてな」
背筋が凍りついた。
全ての考えが吹き飛び頭が真っ白になった。
後ろにいるであろう彼の事も勿論、考えられなく、歩いていく香夏子達の背中をひたすらに眺める事しか出来なくなった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
遊びに行くというかデートなのか?
そんな感じのサブ的な話を入れようか迷っています(笑
ではまた次回も読んでいただけたら嬉しいです。