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Episode.2 相談


「よう! 聞いたぜ! 昨日は大変だったようだな!」


 中学の頃からの付き合いで俺の後ろの席の河原かわはら正樹まさきが声をかけてくる。

 その顔にはニヤリとした表情を浮かばせている。


「おはよう正樹、今日は随分気持ち悪い表情を浮かべているな。何か気持ち悪いものでも食べたか?」


 などと毒を吐いてみる。本人はその俺の吐いた毒を歯牙しがにもかけずそのままの表情で言葉を続ける。


「いいや、気持ち悪いものは食べてもいない。なんら変わりない夜ご飯だったし朝飯も普通のトーストとスクランブルエッグに味噌汁だった」


 トーストに味噌汁って、不思議な組み合わせだなとは思ったけど特に変なものは食べていないようだ。


「でもまぁ、特別元気だってことは事実だ」

「じゃあそれか」


 上手く話を逸らそうかと思ったわけだがどうやらそんなに上手くごまかせそうにない。


「んで? なにがあったんだよ」


 先ほどまでとは打って変わって真剣そうな表情だ。どうやらこの追及からは逃れられないらしい。


「下、行こうぜ」

「おう」


 正樹まさきとともに一階にある生徒ホールへと向かう。

 まだ予鈴までは二十分以上あるしこの時間生徒ホールにはあまり人がいない。こんな複雑な話をするのにまさにうってつけな場所だろう。それに教室にいるとあいつが来るしな。


 自販機で紙パックのイチゴミルクを、正樹は缶ジュースを買ってそれぞれ席に着く。


「……さて、どこから話したものか」

「ゆっくり考えて話してみろよ、聞くからさ」


 なんだかんだこいつは信頼できる人間だし、こういう話をするにあたって適切なアドバイスとか話を突っ込んでくれる。だからこちらも真剣に話そうと思える。


「なんていうかさ、俺が浮気していたっていうんだよあいつが。それで自分も浮気をしたと」

「うわ〜こじれてんなぁ~」

「それで、俺が否定したらなんか一気に別れるとかそういう話になったというか」


 自分でも正直上手く整理がついていないからか不透明な話し方というかもやがかかっているように、曖昧に話してしまう。でも重要なことはしっかりと話せていると思うので要点のようなものは上手く伝わっただろう。


「なるほどね…………んでしたの? 浮気」

「してねぇっ!」

 

 即答した。


「じゃあなんでそんなことになってんだよ…………といってもしゃあないか。ったくしょうがねえなあ、後でさりげなく話聞いておくわ、何か誤解があるらしいし」


 やっぱりこいつはちゃんと話を聞いてくれて自分にできることをしっかりとしてくれようとする。


「ただ、お前も自分に心当たりがないかしっかり自分の行いを見返してみるんだぞ! あいつもあいつで一度頭に血が上ると人の話聞きやしないから…………手を焼くぜお前ら」


 こんな風に、俺の話を聞いて俺の見方だけで味方をするのではなく、俺に対してもしっかりと釘を刺してくれる。そういうところがこいつに話してもいいと思わせる。


「すまんな、今回ばかりはすごい助かる」

「まあでもいい機会なんじゃないか? 実菜みなだけでなく色々な女子を見てみろよ」


「そんな上手く切り替えられるもんでもないし、上手くもいかねえよ」

「そうか?」


「そうだよ」

「ま、頑張れよ」

「ありがとな正樹」


 こうして朝の話し合いが終わる。予鈴まではまだ十分くらいあった。


「んじゃあ、俺は一旦先に教室戻ってるな」

「ああ」


 はらはらと手を振って生徒ホールから出る。それを眺めながら俺もやるべきことをする。


 自分にも心当たりがないかと思い返してみる。実に五分間もの間しっかりと考え直してみるがやはり思い当たる節がない。


 ただ、こればっかりは重要なことなので分からない、はい終わりでは済まない。自分の中できっちり結論が出るまでしっかりと何度でも考える。しかし今はとりあえず考え直した結果「ない」という俺自身の主張は変わらなかった。


 それに……だ。そもそも浮気という基準は人によってまちまちだ。そのため明確な基準はなにもない。だからこそというのもあるが何度も考える。


「とりあえず教室に戻るか……」


 生徒ホールを出て目の前の階段を上ろうと階段近くまで行った辺りだ。


「――あっ」


 声の方向に首を向けると、そこには気まずそうな表情を浮かべた実菜みながいる。


「おはよ」

「うん」


 それだけ交わして俺の方が先に階段を上る。

 とりあえず今はこれでいいだろう。


 振り向いた彼女の目下にはうっすらとくまのようなものがあったように見える。……それがどうした、とも思うがそれと同時に考えなくてもいいことまで考えてしまう。


 だって、もしそれが本当だったのなら俺も同じだったから……。

 俺はそっと自分の目元に触れた。

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