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#009

その日、ジアス地域の人々は、その奇妙な行動をとろうとしていた。

唐突に、それまで行政府の建物はおろか、洞窟衆でさえ存在しなかったはずの場所がにわかに顕在化したのだ。

建物のみならず、それまで使用されていなかった階段や物見の塔までもががいきなり出現した形である。

なにがなんだかわからず、人々は、突如出現した建造物群を眺めているだけだった。

「これは……」

その光景を観察していた物見の兵が、そう呟く。

「召喚魔法……では、ないな」

魔法兵の一人が、そう反駁する。

「どちらかというと、この構造は、魔法により自動的に構築した空間だ。

あまり高度な術式には見えず、建材や浮揚に使用するための機構類は見当たらない。

そもそも、かなり広大で円形状をしている。

場合によっては、かなり大規模な、屋内に収まる程度の規模の空間を作れる構造だ」

「では……あれは、魔法により出現した、というわけか?」

「おそらくは……」

物見の兵は頷いた。

「それ以外に説明のつけようがない」


数十万という人間が一夜にして出現した不自然な建築物群。

それが、一夜にして出現したのだ。

そのすべてが魔法によって構築されている、というわけでもあるまい。

建物なり建築物なりは、一度出現すると自壊まではしないのだが、すぐに別の場所に出現してしまっていた。

そのすべてが物理的な構造物でありながら、一度内部に格納した物体を別の場所へと移動させている。

こうした魔法を介して構築する物、あるいは、原理的には、なにか。

あるいは、何者かが、そうした機構を呼び出せているのか。

なんにしても、理解ができなかった。

従来ならそうした方法で維持をする必要があったはずのそうした機構が、今のところその使用を控えていた。

それも、実際に使用されるところまでは行ってはいない、という風であるのにも関わらずだ。

いや、それ以前に。


「これだけ大きな建造物を一晩にして造ることはできるものなのか?」

建築現場に居る兵士たちが、戸惑いの声をあげる。

そもそも、一夜にして、などということがあるものだろうか。

ましてや、ここは魔法の影響で、どこからともなく出現した場所である。

建造中の建造物をそのまま使い回しているだけでも、十分に非常識であった。

いや、それ以前にだ。

そうした魔法を利用して、いったいどんな建物を造るつもりなのか。

王国内にある、この広大な土地の全景を見渡しても、そこであるという建築物群がまるっきり見当たらない。

とにかく洞窟衆が進出して以降、次々と新天地を切り開いている、山地にある断崖絶壁のすぐそばまで、転移魔法で届くらしい。

「タロウ領からの連絡で、他の場所にも転移魔法を使用するための準備をはじめるよう伝えたいとありました」

物見の兵がタロウに告げる。

「なんでも、既存の断崖に高垂直の配管を通して、内部の物品を長期滞留させる準備があるそうです。

それに、なんらかのトラブルが生じた際には、一度に何百名もの転移魔法使いをそこに送り込む準備をしているとか」

「それだけの人数を用意しているはずが、いざ転移魔法を使いはじめる間際になっても、まだ他の場所には届いていない?」

人事局の者が、そんなことをいった。

「おそらくは、まだこれからだ」

一度そうした魔法を使用しただけでは、転移先の様子が伝えられるのと、洞窟衆が進出した範囲内に出現しないのとでは、条件が違ってくる。

転移魔法の研究を本格的に行っても、成果が出てくるまでには時間がかかるのだった。

洞窟衆が進出して以来、こうした転移魔法使いを確保するための手配を他の場所でも行っていたのだが、その仕事も段々とはじまっており、今では実際に転移魔法が使える魔法使いを確保する作業に専念するようになっている。

そうした転移魔法使いの人数さえ揃えてしまえば、仮にその魔法使いを確保したところで、実際に実用化するまでにはかなりの時間を要するはずであった。


「そいつは一大事だ!」

報告を聞いた誰かが、叫んだ。

「物見の兵、タロウ領に急ぎ、確認をして来い!

タロウ領にも連絡して、周辺に他の転移魔法使いを派遣させる準備をさせろ!」


また新たな、大きな情報が、洞窟衆経由でジアス地域に存在する洞窟衆関連施設にも伝えられた。

ある物を設置したことによって転移魔法が発動し、そこから物品や金銭などが周辺の地域へと運ばれる。

その際、一度設置した物品が撤去されたり破壊されたりしたとしても、その周辺に出現していた物品が再び別の場所へと自動的に転移し、再生してくれるのだ。

こうした物品で恒常的な金銭や各種の物資を生産するためのノウハウを、洞窟衆側は今後、ジアス地域内部に根づかせるつもりである、という。

一種の公共事業の一環といえたが、同時に、そうした事業を稼働している洞窟衆の軍事力も、外部の勢力に較べれば圧倒的に貧弱なはずであった。

食料など、現地で調達しなければ生活することもままならない有様である。

ここでそうした洞窟衆の関係者を雇用し、恒常的な仕事を行おうという試み自体が、洞窟衆側から見ればかなり非常識な行為といえたが、幸いなことにこの試みについてこれまで成功してこなかった。

なぜならば、洞窟衆は、今のところそうした外部勢力と正面から衝突するようなことはなく、それどころか自分たちの文化圏にこうした業態を根づかせようとこうして実現して見せた、という実績があるからだった。

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