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#008

「待って、タロウ! 危ないよ!」

「え?」


何かがおかしい。

タロウはとっさに横のアイビスを見る。


アイビスは、いつもの、いつもの穏やかな微笑みを……まるで、氷のような瞳で、俺を見つめていた。


「もう……、仕方ない人ね、タロウは……」


アイビスはそういうと、タロウの前に出て、その両手を包み込むように包み込む。


「えっ」

「待って」


タロウは、その言葉に驚いて、体をのけぞらせる。


タロウは、そのまま、ゆっくりとアイビスを見やる。

そのタロウの顔色が、どんどん悪くなっていく。


そして、


「え、アイビス、さん?」

「……タロウ様、約束をしていましたね?」

「え……、いや、え? 何? 約束?」

「……私は、タロウ様を幸せにします。そのために、強くなると」

「あ、あぁ……」

「その約束も、果たします……これからも、一緒に居てくださる、と約束も……」

「あ、ああ……」

「その約束を果たせないときは、私は……タロウ様の敵」


タロウは理解したようだ。

自分には、アイビスは必要なのだと。


「アイビス……さん」

「タロウ様、愛しています」


その日から、タロウは、アイビスの事をこう呼ぶようになった。

優しく、聡明で、全てを包み込むような微笑みをアイビスに向け、タロウを強くする。


その後で、タロウはアイビスの事を呼ぶようになったのだが・・・それは次の話。


それから、2年。

タロウが訓練法を学んでいる頃。


アイビスが消えた。


どこに行ったのかを探す。


行先はわかっている。

アイビス・レオナルドが、タロウの前から消えたのだ。


「どこだ……どこにいる!?」


探し回る。

どこに消えたんだよ……!


「はぁはぁ、はぁ……どこに行っちまったんだよ……全く……」


そう悪態をつくタロウの前に、アイビスが現れた。


先ほどのタロウと同じく、優しい笑顔で、タロウの前に現れた。

そして、


「タロウ様ー」

「アイビスっ……!? どこ行きやがった!?」

「タロウ様は、このあと、食事ですか?」

「あ、ああ、そうだけど……」


と、タロウが答えている間にも、アイビスは言葉を続ける。


「一緒に食べません? お腹空きましたー」


と、アイビスは微笑む。


「お前、これからご飯だぞ? お腹に入る前にちゃんと食えよ」

「嫌です」

「何でだよ!?︎ まだ何も食べてねぇじゃないか!」

「お肉食べます」

「いやっ!?︎」


断られた。もう、何を言っても無駄だと悟ったタロウは

アイビスに背を向けた。


「あっ」


と、タロウが立ち去ろうとした。

そこで、タロウが振り返った為に、アイビスの顔が視界に入る。

その目には、確かな『希望』があって、全てを包み込もうとするような、慈愛の笑みを浮かべていた。


(ははっ……なんだよ、結局。全部、自分の都合の良いように、勘違いさせられて、勝手に幸せになって、勝手に負けただけじゃねぇか……)


タロウは、小さく笑うと踵を返して、その場を立ち去った。


この時、タロウがアイビスにどんな感情を持っているか。

それは、今のタロウにはわからなかったが・・・


後に、とある酒場で。


とある酒場で、勇者である2人の男女が密会していた。


「それで? お父さん、このあと何をするの?」


お父さんの質問に答えたのは、彼のお目付け役兼、将来のお婿様候補のアリスだった。


「お父さんじゃなくて、お父さんだよ。お父さんは帰ってきても、すぐどっかに行っちゃうでしょ? だから、お父さんのしたいようにすればいいの。例えば、この王都でお店をいっぱい立てて、王様と王国の威信を高めたりすれば、お父さん頑張れるでしょ? 頑張ったら、お父さんのお店に買いに来てくれるよ」

「えー、私は今まで通り、タロウお兄ちゃんと一緒に居たい」

「いや、だからね? お兄ちゃんが王都にいる時に、こっそり帰ってくるから、それまでお父さんは、どっかに隠れてて」

「えー、何で〜?」


1人だけ駄々をこねる幼子が誕生していた。

お父さん改め、勇者のタロウである。


しかし、タロウは困り果てていた。

アリスが頑固過ぎて、親子間の溝がかなり埋まってしまっている。

とりあえず、世間話でもするかと、タロウはアリスの祖父に話しかけた。


「えっと、すいません。ちょっと、いいですか?」

「ほっほ。タロウ坊、なんだい?」

「実は、旅の途中で立ち寄った村で、勇者召喚に巻き込まれまして……しかも、召喚したのが『神の屑』と呼ばれる1人の少女でして……国王様に事情を説明して、穏便に帰ってもらえないかと相談したいのですが……?」

「ほ、ほぉ、それは大変な目にあってしまったので、是非とも、王都に戻ろうと思っとったのですが、それが、その必要がありそうですな?」


目を輝かせ、タロウを見るアリス。


「ええ。このままでは、いずれこの国から逃亡しなければいけなくなりますので」

「タロウ坊が逃げる!?︎」


元、国王だった男だ。

そう、言われれば、それまでであった。


「ほっほ、それは大変な目にあって、お父上に責任を取ってもらわんといけませんな。安心せい、必ずや、そのような事にはならないと断言しましょう!」


ニッコリと笑いながら言うタロウに、アリスは安堵の笑みを浮かべる。


「ほっほ、安心したわい。これで、帰れるのじゃ」

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