#026
で、ジョンとその嫁二人を屋敷に残し、俺たちはダンジョンの入口に向かっていた。
このダンジョンに入ってすでに3時間ちょいが経っているが、いまだに魔物と出会う気配はない。
「今のところ魔物は出てこないな」
緊張を解き、ジョンがつぶやく。
「それも仕方ありませんわ。さすがにこれだけの大人数がいてはいくらタロウさんでも一人歩きはできませんもの」
シャルもやや疲れた様子で答える。
「それもそうだな、ダンジョンの中って初めてなんだし、どんな魔物が出ても不思議じゃないよな。っと、あそこか」
最初に入った洞窟のすぐ手前に、でかすぎる扉があった。
扉は高さ15メートルくらいか。長さは4mぐらいなので、扉と言うより扉のような形ではあるが。
「これを開ければダンジョンには入れるのか?」
「ええ、そうですわ。さすがに簡単には行けませんわ」
ジョンがシャルに確認をとる。
「ええ、それは分かっておりますわ。それに、この扉は特別なものですから」
「特殊な扉?」
「ええ、わたくしが昔、研究用に作ったものを、魔法で再現したものだそうですわ。正確には魔法そのものではなくて、その応用ですわね」
「それはまたオーバーテクノロジーだな」
魔法と科学は切っても切れないものかもしれないが、科学者の俺にとっては非常に有意義なものだ。
「まあ、これを使えばダンジョンの中に行けますし、大丈夫ですわよ」
シャルが若干疲れた感じの声で言う。
さすがに疲れたのだろう。
「わかった、じゃあ行くぞ。隊列はどうする?」
「先頭がわたくし。次にジョン、シャル、シャロン、シャロンですわ」
「いいのか?先頭やらせるぐらいなら俺が行くぜ?」
「さすがにタロウ様と2人よりも、前衛の方が何かと安全ですわ」
シャルとシャロンが交互に言うが、たしかにそうかもしれない。俺は後衛も普通にできるが。
「でしたら、タロウ様の近くを譲ってもらいますわ」
「俺は一番後ろでいいの……デス」
「なら、俺だな」
ジョンとシャルが言い合いを始める。
「おい、お前らもジョンとシャル譲んなよ」
「わ、わかりましたわ」
言い合いをやめた2人に聞いてみる。
「で、何が違うんだ?」
ジョンは1週間ぐらい冒険者としては行動していないが、一応は初心者講習に参加しているはず。そこで聞いた限りでは、ジョンたちは基本的に後ろで魔物をしとめていたそうだ。
「まあ、冒険者として経験のないジョンたちが、いきなり前に出ていってもうまくはいかないだろうな」
「それは見てれば分かってたことですわよ!」
「まあ、シャロンの言う通りだろうがな」
後ろの心配がないとは言っても、魔物がいつ出てもおかしくないし、危険はある。2人が前に出るというのであれば、ある程度は安心して見てられるが、戦闘中に「後ろから」も何もないしな。
「お前らが先頭か。じゃあ、さっさと開けるか」
ジョンが扉を押す。開けると、そこにあったのは……1枚の写真だった。もちろんカメラではない、スクリーンのようなものだ。
カメラとは違い、画面のようなものは浮かんでいないので正確なところは分からないが、恐らく洞窟のような場所に違いない。マップで確認してみると、洞窟の行き止まりになっており、そこに1枚の折りたたまれた紙が置いてあり、その上に文章のようなものが書かれていたというわけだ。
「おまっ、これ勝手に行ったら怒られるやつだろ!?」
「すいません。ちょっと読みたいことがあったもので…」
「読めるんですか?」
2人の行動を見ていたシャルが尋ねてくる。そういえば、この世界の文字はどうなっているのだろう?と、そこでふと<識図展開>のことを思い出した。マップには当然のように文字はあるが、この世界での「識図」という能力はその地域一帯で使われている物らしい。逆に言えばこの世界に存在する限りこの世界の文字を使っても問題はないということのようだ。
「ああ、大丈夫だ。俺は字が読める。お前たちも読めないだろう?」
「ええ、読めませんわ」
《ルナもわかんないー》
嘘をつく必要もないので正直に答える。
「シャル、何か読めるのか?」
「読むって、字をですか?」
「読めないが?」
ジョンの唐突な質問に混乱してしまうシャル。それもそうだろう、いきなりのことだしな。
「ええと、この紙に書いてあることはわかります。でも、全くわかりませんの…」
「ふむ、ちょっと見てみるか」
言うが早いか、ジョンの懐をまさぐる。そして、取り出したのは数枚の紙だった。その紙には所々線が引かれており、少し曲がっている。これが文字か?
A:この世界の文字は大半がミミズの文字とミミズを使った文字になっています。文字の歪みがあるそうです。
ミミズの文字とか、ミミズの文字を考えるのはやめて欲しい…。
「タロウ様、その紙は何ですか?」
シャロンが横から聞いてくる。
「ああ、これはミミズの国の文字だ」
「何ですって!そんな物がこの国の言葉が理解できるというのですか!?」
驚愕の声を上げるシャロン。まあ、それもそうだろう。俺は鑑定スキルがあるから読めたが、この世界の住人には字自体がわからないのではないだろうか。
「これを見る限りでは、読めるみたいだな。とはいえ、ミミズの王、は合っているのか?あれでもない、これでもこれでもなくと考えたら、かなりつらいぞ」
ミミズの王は3匹のミミズを総称して王だ。ミミズの王なんて呼ぶと、人間を食べることを意味したり、王ではないことを意味したりする。ちなみに字はミミズ1匹1匹の割合だ。
「少なくとも、読めません。どうやって読むんですか?」




