#024
トレントのボスは強烈な蹴り技と尻尾の薙ぎ払いで襲いかかってきた。
基本として遠距離からの高威力な魔法を使えれば楽だと思うのだけど、それだと俺の攻撃手段が無くなるからなぁ……だから魔法は有りだったんだけど。
「ソフィア……任せた」
「は、はい! マリオネットスピア!」
ボスが放った二つの魔法はほぼ同時だった。
「ガアアアアアアアア!」
ボスが魔法をたたきつけたと思ったら、その両方の軌道が微妙にずれている。
単純にフェンリルの速度があって、振りが早すぎたらしい。
どっちのボスの攻撃も強力だけれど、その範囲と威力が想定通りに掛っているかの実験も兼ねて、範囲を絞って放つことにした。
「ガ……」
ヒュンという風を切る音と共に透明な何かで作られた牙がボスに襲い掛かる。
お? ボスが若干よろめいたぞ。
その隙を見逃す俺じゃない。
ちょっと離れた所にいるソフィアさんから回復魔法を施されると同時に俺もボスとの距離を一気に縮めて飛びかかる。
「てい!」
ステップしながら首筋に思い切りかみつく。
ぐ……手ごたえはあった。
僅かに、少し血が滲んでいるだけだ。
でも……なんて所かな。
噛みついている感覚が全く無いんだ。
噛みついたら噛む感覚があるとか思っていたけれど……俺の感覚もおかしいんだろうか?
フェンリル系のボスは噛みつくのがセオリーだったけど……これも理由に当てはめていいのだろうか。
「ガ……ガ、ガ……」
ドバっとボスは血を吐いたかと思うと霧になって消え去った。
「ブ……」
ボスの気配が消え去ってからソフィアさんが何やら呟いてる。
「これで……終わりましたか?」
どうやらボスとの戦いで何か掴んだ……ような、確信のようなものを掴んだようだ。
俺が頷けばソフィアさんは近づいて来て俺に手を握らせてきた。
「なんか……何か掴んだの? これ」
「はい……フェンリルのボスから感じる力の再現に似ています。私の習得している技能の中にも応用で相手の能力を封じる技能もあります。フェンリルのボス……ライクスはその辺り技能が非常に高いと聞きます。なのでこれもその応用でしょうか?」
応用って……俺の真似をしてもあんまり意味が無さそうだしなぁ。
けれど、相手の能力を封じる事がソフィアさんの言った力の一つになるって事なんだろう。
なんて思いつつ俺達は手と足が同時に出てくるんじゃないかと錯覚する光景を見てから帰るのだった。
帰路ではソフィアさんが少し興奮気味に話しかけてきた。
「どうでしたか?」
「うん。なんとなくだけど良いんじゃないかって気がしてきた」
「フェンリルのボスの技能を読み取れましたよ! 意識すればわかるそうです」
意識すればわかる?
気とやらで再現されているって事だろうか。
気を極める事で……気を極めない事で自然と相手の能力を見抜けない相手に勝つ、みたいな武術系統があるのか。
やっぱり感覚的に表現するのは難しい。
ともかく、習得した技能のお陰でボスとの戦闘は随分と楽になった。
そう……思っていた。
ボスとの戦闘を終えたその日の夜。
俺は疲れ果てて風呂に入らず、自室のベッドで体育座りをしながら呟いた。
「……ゲーム感覚かな」
ソフィアさんの技能を調べ、解析した感じ、Lv1の職業で得られる物だとなんとなく理解できた。
けれど、Lv1で得られる情報など本当に微々たる物だろうと思っていた。
しかしこの感覚の共有によって、俺のLvは今まで倒した敵の中でもそれほど高くない下位の……Lv28だった事を思い知らされた。
しかも俺はフェンリルのボスと戦っている訳で……。
なんかこれで良いのか不安になってきた。
この世界のルール的にもおかしいかもしれない。
とはいえ、ここでLvを上げるのが今後の安全な道なのは事実だろう。
ソフィアさんがマッサージ的な技能を覚えたのが良い証拠だ。
マッサージって言い方をするとちょっと卑猥に聞こえるけど効果としてはマッサージなのか……?
「ん……」
ソフィアさんも疲れて寝てしまった様なので起こさない様に俺は自分の部屋に引き籠る。
ちなみにLvを上げて上がった能力に関して認識をしておこう。
フェンリル Lv224 改造不可 0/???
まあ表示された用途不明項目が増えるばかりで、よくわからないけどね。
おそらく、今まで倒した中で唯一、必要経験値の減らなかった相手だ。
フェンリルのLvが……224!?
Lv差があり過ぎるぞ!
倍近い差があるってなんだよ!
この世界のLvってLv差って大きいとこんなもんなのか!?
どんだけインフレしてんだよ!
というか……新しい技能を覚えるのも良いな。
フェンリルのボスの経験値がどれほどの物かはわからないけれど、少なくとも今の俺よりも万遍なくLvを上げていかねばならないだろう。
……目標が定まって来たな。
きっとこの拡張機能で拡張したLvでフェンリルのLvが上がるはずなんだ。
なんて考えながら俺は眠りについたのだった。
で、目が覚めると昼過ぎだった。
「ギャウ」
ユリウスが庭で日向ぼっこをしていた。
昼飯かな?
「ユリウス、朝」
「ギャウ」
俺が声を掛けるとユリウスは俺の所にやってくる。
なんか目が腫れているけど……どうしたんだろうか?
ギャウしか言ってないけどさ。
「ギャウギャウ!」
ユリウスの頭を見ていると何かを指差して爆笑している。
ちょっと笑っている様な表情で……何がおかしいんだろうか?
「ん? 腹が減ってるのか?」
ユリウスも何かを指差して爆笑している。




