#018
「ただいま戻りました」
砦から数百メートル離れた林に、斥候部隊を指揮するアリスが到着した。
「ご苦労」
アリスは、隊長格の隊員たちを前に整列すると、報告を始めた。
「おそらく敵は、今日は日が落ちるまでに街を襲うことはないでしょう。
恐らくは、明日の明け方には攻めてくるでしょう。
が、その場合も、十分に準備して時間差を生かして迎え撃つよう命令が出ております。
数は百、敵軍は七千ほどとのことですが、こちらは街の人口と装備で少々不足、十分に殲滅可能です」
アリスの報告を、護衛隊長のアルフレッドは片手を上げて制した。
「よい。
こちらの初戦は、数の面で圧倒的に不利だ。
斥候部隊、敵の伏兵の有無とその編成を逐次確認をしろ。
伏兵の可能性もある。十分に警戒しつつ、油断せずに進め」
その言葉に、一同は一様にうなずいた。
「斥候部隊は、敵を発見次第、すぐに攻撃に移れ。
発見した時点で、こちらの矢は届かん距離を保て。
騎兵は、敵が見えた時点で弓に矢を番えろ。
歩兵は、伏兵に備えるとともに、接近する敵を迎撃する。
歩兵の弓矢は、必ず敵の伏兵に確実に命中させるために温存しておけ」
「……はっ!」
隊長格の隊員たちがアルフレッドに敬礼し、アルフレッド以下、すべての歩兵団員がそれに答礼する。
(斥候に罠や奇襲の気配はなかったようだな。
敵が近づいてくるのは、日が暮れてから。
それまでは油断するな、とだけ指示しておけばいいだろう)
アルフレッドは、改めて自分の立てた作戦を確認した。
斥候の報告から数時間後、日が傾き始める頃になって、敵一行はついに砦にたどり着いた。
アルフレッドが先頭に立ち、兵五百余名を引き連れて砦に入る。
砦の内部は、石造りで、中央に大きな門がある。
その門の近くに、騎兵を二騎配置してある。
歩兵は、二列縦隊。
先頭に立ったアルフレッドが、兵たちに大声で呼びかける。
「これより、タナカ軍とタナカ伯領軍の戦争を開始する!
諸君らは我らに守られていればよい!
しかし!
われらは一刻も早く、砦を取り戻す必要がある!
各人、己の務めを果たし、砦へと向かえ!」
兵たちはアルフレッドの声に応じて、一斉に「応ッ!」「おう!」「応ッ!」「行くぞ!」と答える。
門を入ってすぐ、アルフレッドは兵たちに叫ぶ。
「第三分隊は砦の北を回り込め!
第三分隊は西を回り込め!
第九分隊は西を回り込め!」
その命令に従って、三隊が北を回り込み、砦からやや離れていく。
アルフレッドは、最後尾の一隊に歩兵二千を乗せて、さらに砦へのルートを確保する。
歩兵隊はそれぞれ、二百メートルほど離れて、隊列から外れて一列縦隊の前進となった。
「いいか!
まずは砦に向けて兵たちは走れ!
足を止めるな! まっすぐ歩け! 命令を忘れるな!」
アリス隊長の号令とともに、兵たちは全力で走る。
――先頭の兵だけを見て、他の兵は見ていなかった。
彼らは――アリスの分隊の動きを、目と目で見ようとはしなかった。
第二分隊は砦の南門の近くにある監視塔を制圧。
しかし、数の違いから、兵の動きがまるでわかっていなかった。
見張り塔の周りは、有刺鉄線と鋼鉄製の柵で囲まれ、完全に閉じられている。
敵兵は、見張り塔のさらに奥まで入り込んでしまっていた。
「いいか、第九分隊は内部の見回り。第六分隊は外の見張りだ!
第四、第六分隊は砦の左だ。敵弓兵を近寄らせるな!
なお、この地区の見張りは、弓を使える者を必ず配置しろ!」
アルフレッドが、分隊に指示を出す。
「では行くぞ! 第四分隊、いくぞ!」
「はっ! 第五分隊、行くぞ!」
見張り塔の兵が制止する暇もなく、敵側から一斉に矢が雨のように降り注いだ。
「ぐあっ! 敵襲! 敵襲!」
「くそっ! 抵抗するな! 敵は少数だ!」
城壁の上でいくつもの悲鳴が上がり、兵たちがうろたえる。
「わ、兵長! 大変です!」
「な、なんだ!? どうした!?」
「て、敵が、兵長の部下をとらえようとしています!」
「ほ、本当か! ど、どうすれば……」
「た、たすけてくれー!」
その声に、兵長がはっとして振り返る。
そこには、三十人の部下と二人の兵がおり――
一人は、足と手を縄で縛られている。
その中にはタロウの姿があった。
「じ、命令どおりに連れてきました! もうこいつしか残っていません!」
「よくやった! 今すぐこいつらを取り調べろ!」
「はっ!」
兵たちはいっせいにロープを放り棄て、タロウを尋問する。
「た、たいへんたいへんっ! たすけてください!」
「な、なんだこいつは!」
「たすけて……たすけてください……!」




