#010
月明かりしかない闇の中に、赤く燃え上がる家々。
燃えているのは、業火の渦巻く家々の一つであり……その中の一つにある屋敷の居間に、アリス、ソフィア、タロウ、アイビスの姿があった。
「で、結局のところどういうことなんだ? 一体」
椅子の一つに座り、三人を前にしてそう尋ねるアイビスに、タロウは溜息混じりに答える。
「ただの屋敷だった訳だが……問題なのは、アリスがいたことだな。
アイビスとしては自分が住んでいた屋敷が燃えていくのを見て、思うところがあったらしい。
それも、自分の家で、だろう? そうして、燃えるのが怖いからと、他の場所でも燃やすような真似をした」
当然ながら、アイビスが屋敷に戻ってくるのに、それに同行するつもりだったタロウも、それに同行するつもりであり、一緒に屋敷を燃やすつもりではなかった。
いや、アイビスとしては、寧ろ一緒に燃えて欲しいという思いはあったが……だからといって、屋敷を屋敷と呼んでもいいのかどうか、迷っていたのだ。
そして最終的に、タロウが選んだのはこの屋敷だった。
ソフィアもその辺りを考えたのか、この屋敷を自分の家、と呼ぶことに異論はない。
だが……そんなタロウ達に視線を向けられながら、アリスは口を開く。
「そうね。実際、タロウの魔法で燃やされている屋敷が燃えていくのを見たことはなかったでしょうけど、燃えていったのは事実よ。それで自然とそういう風になってしまったのかもしれないけど」
そう、アリスは元ギルドマスターという高い立場にいた以上、当然のように自分の屋敷には魔法的な処理をしている。
タロウを含めてこの場にいる全員が、その魔法的な処理をされた屋敷を見るのは初めてだった。
もしその光景を見ていれば、恐らく屋敷そのものが燃えていたに違いないと、そう思っていただろう。
「で、それがどう関係しているんだ?」
「何故この一件で屋敷が燃やされなかったのか、分かる?」
そう言われれば、タロウにも大体の理由は理解出来る。
「アイビスがこの屋敷で暴れたからか?」
「正解」
「ああ、なるほど。もしあの時燃やされていたら、この屋敷は燃えていなかったってことか」
「そうなるでしょうね。もっとも、あの時はちょっと燃えすぎちゃってたかもしれないけど。燃えていたのは間違いないわ」
「……となると、この一件は一応解決したと思っていいんだな?」
「そう、ね。この屋敷は燃えなかったし、そういう意味では一件落着……と言ってもいいような、そんな気がしないでもないわ」
「まぁ、燃えた分それを許せないとか、そういうことがあるんなら、前もって言っておけよな」
不服そうに告げるタロウ。
別に自分はこの一件に不満を抱いている訳ではない。
屋敷の燃えている状況を眺めていたいと思ったり、ソフィアに精霊魔法を習ってみたり、アリスと戦闘訓練をしたり……と、かなり好んでいたのは事実だ。
だがそれでも……やはり、この一件で燃えた屋敷を見る機会となれば、こうなってしまうのは当然だろう。
「もっとも、燃えた屋敷に興味がないとも言えないんでしょうけどね」
「そうね。この屋敷を燃やす原因を作ったのは間違いないし。……それは分かってるんだけど、何かいい使い道はないかしら。特に、盗賊狩りの時に使っていればよかったんだけど」
「いや、燃やす必要があったのか? その、燃えそうな場所に思い切り踏み込めば、燃えるんじゃなくて燃えるなんてことも出来るだろ」
寧ろ、何故わざわざ盗賊のアジトの近くにやってきたのかと、タロウは疑問に思ってそう答える。
本来なら盗賊にとって、燃えそうな場所にわざと足を突っ込んだところで、それは盗賊にとっては罠の可能性が高い。
だからこそ、そこを踏まなければ罠を発動させるという真似は出来ない。
もっとも、盗賊の中にも例外はいるが……大抵そのようなことが出来るのは、戦闘力が低い者か、もしくは何も考えていない者だ。
そのような者達に襲撃されるという可能性も低い。
「罠があるのが分かれば、それはそれでいいんだけど……盗賊の中にも、まだ分かっていないようなことをしている奴がいる可能性があるでしょ? そういうのを使って、罠に嵌めたり、殺したりといった真似をする可能性があるから、出来るだけそのような真似は避けたかったのよ」
「なるほど。まぁ、俺が盗賊狩りに積極的に参加してたのも、それが理由だったし……」
ソフィアの言葉を受け、タロウは自分が積極的に盗賊のアジトに……それこそ、盗賊のアジトと呼んでもいいような場所にまで近づいたのは、そう言った理由からかと納得し……だが、ソフィアは首を横に振る。
「タロウがいたからこそ、よ。もしタロウがいなければ、あのアジトを見つけ出すことは出来なかったのは間違いないわ。そうなれば、それこそ最終的には盗賊に見つかっていた可能性が高いでしょう。そもそもの話、タロウがいなければ見つけるのにもう少し苦労したかもしれないし」
その言葉には、タロウも頷くしか出来ない。
罠を探知する為の能力があるタロウには、あのアジトを見つけることは出来る筈がないのだから。
「それで、盗賊の拠点だった建物は結局燃えてしまったの?」
一段落したところで、アリスが呟く。
どこかしみじみとした様子は、やはりタロウに今回の結末を話しておいた方がいいと、そう思っているのだろう。
「ああ。残念ながら……」
「残念」
タロウの言葉に被せるように、そう告げるのだった。
「これは……また、随分と広いわね。まさかファースにある、ギルド本部のあった建物……貴族街の中でもかなり端っこの方とはいえ、一貴族と一商会の会長兼大商人が住む屋敷とは、場合によっては思えないくらいに」
「けど、それが色々と便利な場所だったって話なんだろ?」
「そうね。まぁ、その辺の事情は直接私が話したい訳じゃないから、そこまでする必要があるとは思わないけど。……とにかく、あの屋敷はあの屋敷のままだし、私が燃やしてしまった屋敷の後始末もこっちでしておくから……もう、あの屋敷の所有権は私にあると思ってもいいのかしら?」
若干の呆れと共に尋ねるソフィアだったが、既にタロウはそれに対して頷きを返すだけで、特に躊躇うような様子もない。




