変わらない日々
陽が昇る。
日光の入らない部屋の中で、体内時計だけを頼りに目を覚ます。
早く起きようとも、寝坊しようとも困ることはない。多少稼ぎに差が出てくることはあるが、ほぼ誤差である。その誤差を気にするような性格が良いのか悪いのかは、知らないし興味もないと気にもしない。
本日は平均的な時刻での起床。いつも通りの一日が、いつも通りに始まってしまう。気分は微悪。頭痛に吐き気に、身体は泥のように重い。
それでも、ベットから起き上がらないわけにはいかない。
未だ霞む視界の中、自室を出るシフィである。彼女の部屋は二階。寝起きの、危なっかしい足取りで階段を下りていく。
「…………」
一人で使うには広すぎる机。独り暮らしには多すぎる椅子の数。今はもう使われていない食器の数々。
定位置となっている場所にある椅子へ腰を掛ける。そして暫くの間、虚無の時間を過ごす。
それは、どこかのタイミングでスイッチが切り替わるまで続く。十秒かもしれないし、一分かもしれないし、一時間かもしれない。
ある程度は自らの意志で切り替え可能であるのだが、できない時はいつまで経ってもできない。
本日は比較的早い切り替えであった。
「……いただきます」
朝ご飯は、買い溜めてあったものをその日の気分で済ませる。適当にミックから取り出して、ただそれを食べる。
美味しいものなら何でもいい。不味くても身体に良いモノなら仕方なしに食べる。健康を買うという、シフィなりの生きていくための思考。
身体が仕事道具である討伐者。シフィとしても最低限は気に留めていることであった。
シフィにとって食事はただの栄養摂取の時間。栄養を金で買い、必要だからそれを食べる。その程度の認識。
「……ごちそうさまでした」
教え込まれた挨拶を欠かせたことはない。
食事を済ませた後は、身なりを整えて仕事へと出かける準備をする。乾いてしまって見えてはいないが、よだれの垂れた顔。ボサボサに乱れた髪。真っ白に見える歯並びの良い歯。
歯磨きをして。顔を洗って。髪を梳いて。
準備が完了したら、次は洗濯物。脱ぎ捨てられた衣服を専用の箱に入れるだけ。あとは勝手に洗って干してを済ませてくれる。
便利な道具だが、太陽の出ている日じゃないと満足に仕事してくれない気分屋でもある。
最近はエネルギーを溜め込んで夜間や雨の日にも利用できる型もあるが、今のシフィには手が出せない値段の代物であった。
ちょっと奮発してみようかな? という気すら起きない。
掃除は適当に風を流し込むだけ。緻密にコントロールされた風に乗せて、塵を外へと運び出す。
気味の悪い力。便利だが、とても人間だとは思えない力。
一度、家を出る前に振り返る。そこには、当然誰一人存在しない部屋の景色が見えるだけ。
「……いってきます」
いや、シフィには違うのかもしれない。視ているものなど、人によってバラバラであるのだから。
何がソコに在るのか。
思い出を幻想であるのだと語る者には理解できない、カタチあるモノとして認識できない人間にとってはまさしくイかれているのだろう。
こうして、シフィの一日は始まっていく。今日も、明日も。きっとその明日だってそうなのだろう。
劇的に何かが変わることなど、本人がそういった意志を持って何かしらの行動を起こさない限り、まずないことだろう。
シフィにはその意志がない。だから、きっといつまでも変わらないまま過ごしていくのだろう。
それこそ、再び人生を変えるほどに強烈な出来事がない限り。