いつの日か
「あははっ、綺麗だね~!」
誰に話しかけるわけでもなく。初めて見る光景に胸を躍らせる。
道行く人たちは一様にしてその様子を窺うものの、誰一人として声をかけることはしない。
厄介事に巻き込まれたくない。自分がやらなくても誰かがやってくれるだろう。きっと大丈夫。そんな、冷えきった空気など気付きもしない。
普通、悪意を持った者が一人くらい現れるような状況である。が、今夜に限っては誰一人として近づく者はいなかった。
不気味。
はっきりと自覚することはなくても、身体が本能が警鐘を鳴らす。
だから、どれほどに優しい心を持っている人間でも。どれほどに汚れた心を持っている人間でも。誰もかかわろうとしない。
「たーのしいねー!」
クルクルとワンピースの裾を浮かばせて、大きく手を広げる。
理由などありはしない。ただ、そうしたかっただけ。
誘い込まれるように、より薄暗い場所へと移動していく。
勿論、意識してのことではない。見えるものが少しずつ変わっていく。それだけで、何もかもが可笑しかった。
ここが何処なのか。いつからここにいるのか。何を求めているのか。何を求められているのか。
教える者も、知る手段も、必要と感じる心さえも。
至って正常である。だって、それが全てだから。
見えているのは見ようとしているものだけ。
何かから逃げているわけでも、何かを認めたくないわけでもない。
「早くこないかなー?」
望む。いつまでも望む。
今日か、明日か、またその明日か。
その瞬間だけをただただ待ち望む。
今はそれだけである。