選んだ道
私が討伐者として生きる道を選んだのはいつだっただろう。
親は二人共どこかに行ったきり帰ってこなかった。それが何年前だったっけ。家を残してくれていっただけ、ありがたいと思わないといけない。
仲が悪かったというわけではないし、少なくとも私は母も父も好きだった。だが、私の両親は違っていたらしい。
兄弟はいないし、親戚もいない。あの日以来、私は一人で生きていかなければなくなったのだ。
それまでは家事の手伝いばかりで、働いたことなどほとんどなかった。たまに、父親の手伝いに行ったくらいだ。
当然、生活をしていくにはお金が必要になってくる。だったら、なにをして稼いでいけばいいのか。最終決定に至るまではさほど時間はかからなかった。
父が働いていたところへ頼む? ありえない。
何度か手伝っていて自分には向いていないと思っていたし、それに行方を晦ませた人の子供など雇いたくはないだろうからだ。
そもそも、私は人付き合いが苦手だ。なるべく一人で行動できるような職が良い。それも、短い期間で多く稼げるような、そんな職業。
それが討伐者という職であった。
「いらっしゃい。いつものとこ空いてるよ」
「うん、ありがとうございます」
店に着いたシフィは、今では定位置となっている隅の方の席へと座る。店の入り口や、客に囲まれたような席ではどこか落ち着かないからだ。それこそ、料理を楽しむどころではなくなってしまうくらいに。
そんなシフィを気遣ってか、店側としても極力その席に客を入れないようにしている。そのため、ここ最近はシフィ専用の場所のような扱いになっている。
シフィ自身そのことに気付く事はなく、ラッキーくらいに思っていたりする。
「トマトのスパゲッティお願いします。チーズいっぱいで」
「はいよ」
シフィが注文する料理は大体決まっている。基本スパゲッティで、味付けをその日の気分で変えている。その他はたまにステーキを頼むことがあるくらい。
「はい、サラダね」
「ありがとう」
注文を聞きに来た時には既に手にあったサラダが机に置かれる。サービスではない。シルフィが必ず注文することが分かっているため、入店と同時に用意するのだ。シルフィにとってサラダはデフォなのである。
もっしゃもっしゃ。
特に感想を漏らすことも無く、夢中で食べ続けるシルフィ。
誰かと会話のある食事など、ほとんどない。朝も、昼も、夜も。場所こそ違うものの、一人での食事が当たり前になっていた。寂しいとも思わなくなってしまっていた。
その方が気が楽だし、それで困ることもないから何も思わない。
「はいよ、トマトのスパゲッティね」
「ありがとうございます」
出来立て湯気の昇る食欲を刺激する香りの幸せなこと。何度食べていても、その一口目は変わることなくランキングを更新させていく。
相変わらず美味い。それだけであった。
客が入り、客が出ていく。途中で知った顔もあったが、特段何かがあったわけでもない。
何にも干渉されることなく、トマトのスパゲッティを完食するシフィ。ほど良く腹も膨れ、一気に幸福感が押し寄せてくるのに身を任せる。
目を瞑っていると周囲の音が自然と耳へと入ってくる。だがそれも暫くすれば小さくなっていき、完全に自分だけの世界へと入っていく。
眠ってしまうくらいにリラックスして、大きく息を吐く。
「よしっ」
充電完了。
大変に満足したところで席を立ち、支払いを済ませる。
「ありがとうございましたー」
「はいよー」
店を出た時にはすっかり日も落ちてしまっていた。
明る過ぎない光に照らされ、シフィは誰も待つことのない家への帰路に就く。