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失日回想  作者: あいえる
4/8

選んだ道


 

 

 私が討伐者として生きる道を選んだのはいつだっただろう。


 親は二人共どこかに行ったきり帰ってこなかった。それが何年前だったっけ。家を残してくれていっただけ、ありがたいと思わないといけない。


 仲が悪かったというわけではないし、少なくとも私は母も父も好きだった。だが、私の両親は違っていたらしい。


 兄弟はいないし、親戚もいない。あの日以来、私は一人で生きていかなければなくなったのだ。


 それまでは家事の手伝いばかりで、働いたことなどほとんどなかった。たまに、父親の手伝いに行ったくらいだ。


 当然、生活をしていくにはお金が必要になってくる。だったら、なにをして稼いでいけばいいのか。最終決定に至るまではさほど時間はかからなかった。


 父が働いていたところへ頼む? ありえない。


 何度か手伝っていて自分には向いていないと思っていたし、それに行方を晦ませた人の子供など雇いたくはないだろうからだ。


 そもそも、私は人付き合いが苦手だ。なるべく一人で行動できるような職が良い。それも、短い期間で多く稼げるような、そんな職業。


 それが討伐者という職であった。


「いらっしゃい。いつものとこ空いてるよ」


「うん、ありがとうございます」


 店に着いたシフィは、今では定位置となっている隅の方の席へと座る。店の入り口や、客に囲まれたような席ではどこか落ち着かないからだ。それこそ、料理を楽しむどころではなくなってしまうくらいに。


 そんなシフィを気遣ってか、店側としても極力その席に客を入れないようにしている。そのため、ここ最近はシフィ専用の場所のような扱いになっている。


 シフィ自身そのことに気付く事はなく、ラッキーくらいに思っていたりする。


「トマトのスパゲッティお願いします。チーズいっぱいで」


「はいよ」


 シフィが注文する料理は大体決まっている。基本スパゲッティで、味付けをその日の気分で変えている。その他はたまにステーキを頼むことがあるくらい。


「はい、サラダね」


「ありがとう」


 注文を聞きに来た時には既に手にあったサラダが机に置かれる。サービスではない。シルフィが必ず注文することが分かっているため、入店と同時に用意するのだ。シルフィにとってサラダはデフォなのである。


 もっしゃもっしゃ。


 特に感想を漏らすことも無く、夢中で食べ続けるシルフィ。


 誰かと会話のある食事など、ほとんどない。朝も、昼も、夜も。場所こそ違うものの、一人での食事が当たり前になっていた。寂しいとも思わなくなってしまっていた。


 その方が気が楽だし、それで困ることもないから何も思わない。


「はいよ、トマトのスパゲッティね」


「ありがとうございます」


 出来立て湯気の昇る食欲を刺激する香りの幸せなこと。何度食べていても、その一口目は変わることなくランキングを更新させていく。


 相変わらず美味い。それだけであった。


 客が入り、客が出ていく。途中で知った顔もあったが、特段何かがあったわけでもない。


 何にも干渉されることなく、トマトのスパゲッティを完食するシフィ。ほど良く腹も膨れ、一気に幸福感が押し寄せてくるのに身を任せる。


 目を瞑っていると周囲の音が自然と耳へと入ってくる。だがそれも暫くすれば小さくなっていき、完全に自分だけの世界へと入っていく。


 眠ってしまうくらいにリラックスして、大きく息を吐く。


「よしっ」


 充電完了。


 大変に満足したところで席を立ち、支払いを済ませる。


「ありがとうございましたー」


「はいよー」


 店を出た時にはすっかり日も落ちてしまっていた。


 明る過ぎない光に照らされ、シフィは誰も待つことのない家への帰路に就く。

 

 

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