違い
討伐報告所を出てすぐに、物騒な武器防具をミックへと収納するシフィ。
討伐報告所へ行くまでならまだしも、一般人の多くが利用する通り道で見せびらかす意味はあまり無い。重いし邪魔だしで、デメリットしかないのだからそうするのが普通だ。
目を惹かれたい思いでわざわざ身につけたままの人もいるが、いわゆる新人さんに多い。結局何も起きることはなく、暫くしてからは大人しくミックへの収納をするのだが。
例外としては、女性は武器を見せるようにする人が多い。その方が無用なトラブルに巻き込まれにくくなるからだ。いわゆるナンパといったものへの牽制となるのだ。
もっとも、それも新人の女性討伐者に多いが。多少戦いの経験を積んでいくと、対人での対応も相応のものになっていく。格闘技を学ぶわけではないのだが、モンスターに比べれば……となってくるのだ。
「なぁ嬢ちゃん。これから暇?」
と、早速とばかりにシフィは話しかけられる。
会話するのも無駄である。そう判断しているシフィは無視を決めている。知らない人との会話、更には完全に身体目的であろう目つき。何もかもが気持ち悪い。
大抵の場合は無視で済むのだが、何回かに一度は粘ろうとする馬鹿な人間もでてくる。
「無視はよくないんじゃないか、えぇ?」
今回はそっち側の人間だったらしい。シフィの肩に手を置き、引き留めようとしてしまう。
もしも、一般女性に対しての行動だったのだとしたら多少の言い合いで終わっていただろう。だが、運が悪かった。
「が、あがががぁあぁぁぁああぁっ!!!」
男の腕が斬り飛ばされる。
突然の事にただ叫ぶことしかできない男に対し、冷たい目でその様子をただ見るだけのシフィ。
可哀そうとも、憐れだとも思わない。何も思わない。腕を斬り落とした時点で興味が失せていた。
街中でこんなことがあれば当然騒ぎになるわけで、がやがやと通り行く人達が声を上げる。といっても、遠巻きに見ていたり、ひそひそと話す人が大半である。
「あー、はいはい。ちょっといいっすかねー、ってシフィちゃんか。ま、一応だけど状況を聞いても?」
騒ぎを聞きつけた町の警護隊の一人がシフィへと駆け寄ってきて話しかける。シフィとは顔見知りのようで、特段慌てることも驚くこともしない。
「突然肩を掴まれました。つまり暴力を振るわれました」
「んー、なるほど。いつものことね」
いつものこと。つまりは、初めてではないということ。
「まー、できればもうちょっと別の対応して欲しいところではあるけどね」
「私に犯されろと?」
「まま、こっちも仕事だからさー。そんな睨まないでよ」
「許されてる範囲内でやってる」
「オーケーオーケー。それに関しては文句を言うつもりはない。たださ、ほら。血が苦手な人もいるからね」
誘導されるままに視線を向けると、大量に飛び散った血液が。モンスターを狩っているシフィからすれば見慣れた景色ではあるのだが、自分自身も最初は怖かったことを思い出す。
少し離れている人達の中には怯えている人もいる。子供もいるし、あまり見せるようなものじゃない。
「……まぁ、考えとく」
「うーいよろしくね」
この男の適当な態度にも慣れたモノ。シフィとしては警護隊ならばもっとしっかりして欲しいとは思うものの、これが彼の生き方なのだと理解してからは、特に気にすることもなくなっていた。
自分には自分の生き方が。彼には彼の生き方が。
とやかく言われたくないし、だからとやかく言うこともしない。ということだ。
「今日もぷっぽか?」
「うん、そう」
プアポケット略してぷっぽ。美味しい料理が安くて沢山食べられる店である。シフィがいつも利用している店で、何を隠そう彼もその店に魅了された一人である。
何度か店の中で会う事もあるが、互いに軽く手を上げるだけでそれ以上には干渉しない。プライベートで深く付き合う程ではなかった。
「んじゃ、今度は血を見なくて済むように願ってるわ」
「別に、私も好きでやってるわけじゃないんだけど」
ハハハ、と笑って、警護隊仲間と腕を斬られた男を連れて去っていく。それを見送り、若干避けられるようにして人混みを再び歩き始めるくシフィであった。