表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
失日回想  作者: あいえる
2/8

生き方


「今日の稼ぎは……どれくらいかなぁ」


 地面から顔を出している大きな岩の影。一人呟くのは、未だ大人に成長しきれていない顔立ちをした少女、シフィ。


 息を潜めているはずなのに。独り言を呟いていることから察しがつくと思うが、およそ一人前とは言い難い半人前の身分である。


「……帰るか」


 血の匂いが未だ残る場所ではどうにも落ち着かないのだろう。ある程度の危険に対処できるであろう程には体力が回復したシフィは、ケツに着いた砂を払って立ち上がる。


 その際に多少の音が鳴ろうとも気にしない。余裕があるからなのか、大雑把であるからなのか。彼女に至っては後者である。そのせいで何度も危険を呼び込んでいるのだが、まるっきり反省する様子はない。


 ガサ、ガサっ!


 背の低い植物をかき分ける音からも察せられるように、今回も森を徘徊する何らかの索敵に引っかかってしまったらしい。


「アンコールは求めておらんのじゃ」


 まるで原因は相手にあるかのような言い草である。


 足音、少しばかり隠れていない背中を見るに、大したことはないと判断。若干面倒な表情をさせるものの、シフィはさっと腰に差してある剣を構え一撃必殺の機会を狙う。


 ぷっぎゃぁぁああ!


「……せいっ」


 ご丁寧に咆哮を上げ飛び出してきたところを、避けたままに剣を振るう。そして普通、若い少女の力では到底成し得ないであろう胴体の両断をやってのける。


「キバンブ、お疲れっした」


 横真っ二つになった、鼻からしっぽまで一メートルもない四つ足の生物――キバンブに対し手を合わせるシフィ。そして、肉片となったキバンブを私空間、通称ミックの中へと収納していく。


 精魂 18+1/107-Rank.2-Level.3


 精魂 19/107-Rank.2-Level.3


 無意識のうちに癖となってしまった、精魂値の確認を済ませて。


 休憩が必要な程に疲労したわけでもないため、次の熱烈なファンがやってこない内に移動を開始するシフィである。


 遅くはないが、驚くほど速いわけでもない速度で木々の間を駆け抜けていく。


 比較的に安全であるとここ数週間で把握した道を通って、無事に森を抜けられたことに一安心。速度を緩め、遠くに見える町へと歩き始める。


 町と町を繋ぐ大きな道。草が禿げた部分よりも、(まば)らに雑草が生えている所を進んでいくシフィである。


 既に日は沈み始め、景色を赤く染め上げつつある。じんわりと汗が滲んでしまう気温、明日は雨なのだろう湿った空気。ジメジメとした環境に、知らず知らずの内に体力を奪われていく。


 シフィはミックの中からいつも飲んでいる果物のジュースを取り出し、欲望のままに一気に喉へと流し込む。キンと冷えていて、爽快な感覚が上書きされていくのを自覚する。


「やっぱサイコーだね」


 満足したシフィはふと、視線を少しばかり落とす。何度も見た、何度見ても惹かれる光景。


 シフィの足元には多くの花が咲いていた。赤、青、黄、白。様々な色の花々。今はそれらに赤いフィルターがかかってしまっているが、それもまた(おもむき)があって良い。


 元は小さな範囲だけだったらしいのだが、今は道標のようなまでに長く町へと続いている。


 既に人の手によって種が蒔かれているため大自然の力だとは言い切れないものの、人の目を惹くには十分過ぎる魅力がある。シフィもまた、その魅力に魅せられた者の一人であった。


 無意識の内に鼻歌を歌っていた、なんてこともあったほどに心が安らぐ場所であった。


 時間が跳んだと錯覚してしまう程度には夢中になって歩いてしまっていたシフィは、花の道が途切れたところ。つまりは町へと到着したところで夢から覚める。


「またやっちゃった……」


 決して警戒を解いて良い治安ではない地域。油断すれば賊に襲われたり、無用な喧嘩を売られたりしてしまうくらいには悪い。


 ただ、彼女の性格上それが直る日が来ることはないように思える。


 済んでしまったことは考えても無駄。切り替えって大切だよねっ。と、目的の場所へと再び歩き始める。


 彼女が向かうのは、街の中でも重要な役割を持つ組織が構える施設。モンスター討伐を仕事としている者達が利用する、成果報告所とでもいった場所。


 仕事の内容が内容なだけに、凶悪な武器防具や生々しい血といったものが苦手な者達にとっては縁のない場所であった。


 どうしてそんな場所へ向かっているのか。勿論、シフィ自身がモンスター討伐を職としているからである。


「なぁおい、今日は怪我とかしなかったか?」


 建物の扉をくぐれば、シフィはすぐに声をかけられる。シフィとしても別に無視する程のことでもないので、無難に大丈夫だと返答をする。


「おっ、おいちゃん達のアイドルの到着だ」


 声をかけられるのは一度で済まない。嬉々とした声で何度か声をかけられるのは、いつも通りだと言える。


「そんなこと思ってるの、おじちゃんだけだと思う」


「いやいや、皆そう思ってるさ。冗談じゃなくってな」


 勿論女性の討伐者が皆無なわけではないが、何故かどうしてか彼女は特別扱いをされてしまう。少しばかりからかうような口調から、シフィ本人としては冗談として捉えているのだった。


 シフィがおじちゃんと呼んだ男性、ブライグとしては本心であるのだが、それにシフィが気付く日は来ない。もっとも、シフィのことをアイドルのように思っているのは彼だけでなく、この町の討伐者の男性の半分ほどがそうだったりするのだが。


 特にベテランと呼ばれるような、歳を重ねている人達には人気であった。理由としては簡単で、子供や孫のように思えて仕方がないからである。


「待たせたな、次いいぞ」


「お疲れ様です」


 報告の順番が回ってきたらしい。声をかけてくれた人にお辞儀をしてカウンターへ近づいていくシフィ。


「次はシフィちゃんね。今日もお疲れ様、怪我はなかった?」


「これといったものは。はい、今日の分です。確認お願いします」


 にこやかに話しかけてくれる職員さんに、少し不愛想な返事を返してしまうシフィ。元々、人と接するのが好きではなかったりする。だからこそ一人で行動しているのだが、いつまで経っても慣れることのないことであった。


 そんなシフィの性格も理解しているのか、職員さんは顔色を変えることなく話を続けていく。


「えーっと、キバンブ三体に、クマくま一体に、薬草が少々ね。まぁ六万クルちょっと、って感じかな」


「そう、ですね。今日は薬草メインにしようと思ってたんですけど、クマくまに見つかっちゃって」


 ミックから取り出した成果が、精査員によって部屋の奥へと運ばれていく。正確な報酬は彼らによって判断され、カウンターで支払われるという流れだ。


 モンスターの大きさ、利用価値のある部位の破損の有無、危険度や価値によって付けられているランク等々。それらの要素から最終的な報酬が決まるのだが、今回は運が良かった。


 最後に仕留めたキバンブは真っ二つにしてしまったが、他のモンスターは比較的余裕を持って対処できたのだ。なるべく外傷を少なく仕留められたので、その分上乗せしてくれるだろうとシフィは予想する。


 状態-良 『キバンブ』一万二千ルク × 二体。計二万四千ルク。

 状態-微 『キバンブ』  八千ルク × 一体。

 状態-良 『クマくま』三万二千ルク × 一体。

 状態-良 『薬草』    二百ルク × 少々。計  三千ルク。


 精査員が持ってきた詳細を見て、職員さんが改めて報酬を支払う。


「はい、合計六万七千ルクよ」


「ありがとうございます」


 まぁこんなもんか。と、報酬を受け取り、『もっとお話ししようよぉ』と嘆く職員さんを無視して次に待つ人へと順番を譲る。


「お待たせしました」


「ああ、どうも」


 見たことはあっても名前は知らない。そんな人たちの間を進み、出口へと向かうシフィ。空いたスペースで語らう人達もいるが、彼女はそこへ混じることはない。


 一人施設を背に、いつも世話になっている食堂へと向かうのであった。

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ