6. 新しいスタート
翌日の朝、いつものように宿屋の馬小屋に寝ていたエトウは、馬の世話を任されている下男に起こされた。
「なぁ、あんた。勇者様のパーティーの雑用なんだろ? もう皆さん出かけたけど、あんたまだ寝てていいのか?」
「……いいんだ」
エトウはそう答えると、馬小屋から出て大きく伸びをした。あちこち固まっていた体に血が巡っていくのが分かった。
「ああ、いい天気だ。今日も晴れそうだな」
太陽はいまだ町の城壁を越えていない。
朝の爽やかな空気を深く吸い込んだエトウは、自分が生まれ変わったような新鮮な気持ちになっていた。
自分は勇者パーティーからやっと解放されたのだ。
これからは自分の思うままに生きていこう。上から頭を押さえつけられて勝手に評価されるなど真っ平ごめんだ。
とりあえず王都にもどり、自分が勇者パーティーを抜けたことを王城に報告しなければならない。
それが終われば、本当の意味で自分の人生を取りもどせるのだ。
エトウは井戸の水で顔を洗って身支度を調えると、王都までの路銀や当座の生活費を稼ぐため冒険者ギルドに足を向けた。
エトウが冒険者ギルドに加盟したのはちょうど二年前だった。教会で賢者に認定され、王都へと向かう前に登録だけ済ませておいたのだ。
Fランクから始まり、その後は勇者パーティーでの魔物討伐などで順調にランクアップしてきたが、この一年間は生活費や装備品の補充などのため、一人で依頼を受けることが多くなった。
その甲斐あって現在ではCランクの冒険者となっている。Cランクといえば一人前の冒険者と認められるレベルだった。
EランクからDランク、DランクからCランクに上がったときは、報酬も上がってそれまでのギリギリの生活から少しずつ抜け出すことができた。
勇者パーティーで働いている時間がなくなれば、エトウは冒険者として十分に生活できるのだ。
エトウは町の周辺で達成できる数件の依頼をまとめて受注すると、危なげなく一つ一つこなしていった。
他の冒険者と合同でゴブリンの小集落を殲滅した後、エトウは昼休憩を取りながら二年前のことを思い出していた。
辺境沿いの小さな村で生まれ育ったエトウとラナの元に、王都から教会関係者がやって来たのが始まりだった。