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5. 勇者パーティーからの離脱

 エトウに対するミレイの理不尽な物言いに、ロナウドが加わったことはこれまでなかった。

 目の前ではミレイの小言がまだ続いているが、エトウはどうやらここら辺が潮時だなと感じていた。


「勇者様、ミレイ様、何度も言うようですが、魔道士からの合図がなければ、ミレイ様が求めておられるような絶妙なタイミングでマナポーションをお渡しすることはできません。私だけでなく誰にもできないと思われます。まぁ、ミレイ様の家中の方で、なにも言われなくてもミレイ様のお考えがすべて理解できるという人がいれば別ですが」


 エトウはミレイの小言が少しだけ途切れた隙をついてそう言った。

 すでに何度も説明していることではあったが、相手に聞く気がなくてもそれが事実なのだから言わざるを得ない。


「なんという言い草でしょう。私の考えを理解する者など、家にはいくらでもいますわ。エトウさんの代わりにその者たちを呼び寄せますので、あなたは今すぐにでもこのパーティーから抜けて頂けないかしら。役立たずはいりませんよね、勇者様?」


「ああ、そうですね。これまでずいぶん我慢してきましたが、やはりエトウくんは私のパーティーメンバーにはふさわしくないようです。エトウくん、心を入れ替えて務めるならばよし。そうでないならばパーティーを出て行ってほしい」


 このときエトウは、ロナウドとミレイに頭を下げてまでこのパーティーに残る意義を見出せなかった。

 補助魔法は必要ないと禁止され、戦闘中に行うことはポーション類の手渡しと、周囲に集まってくる雑魚魔物の足止めだけだった。


 ゴブリンなどを苦手な剣で撃退しながら、ミレイに怒鳴りつけられてポーション片手に走り寄る。

 戦闘が終われば役立たず、足手まといと罵られ、討伐報酬の分け前ももらえない。


 少し前までは自分がパーティーを抜けると同じ平民出身のラナが心細いのではないかと心配だった。

 だが、剣聖という最上級の職業を得た彼女は、パーティーに欠かせない存在となっている。


 ラナと比べて自分は情けない働きしかできていない。だからこそ、彼女はあの夜に自分の言葉を嘘と決めつけたのではないか。


 エトウはふーと深くため息をつくと、ロナウドの目をしっかりと見つめて言った。

「勇者様、皆様がおっしゃるとおり、このパーティーに私は不要のようです。今日限りでパーティーを抜けさせてもらいます。これまでありがとうございました」


「そうか! いや、その方がお互いのためによいだろうと思っていた。エトウくんは自分と同い年でまだ若い。魔物と戦う荒事よりも、町でエトウくんに合った仕事を探した方がよいだろうと思う。わかった。私はパーティーリーダーとして、エトウくんの意思を尊重する」


 ロナウドは我が意を得たとばかりにエトウがパーティーを出て行くことをすぐに認めた。


「ご理解頂いてありがとうございます」

 エトウはもう一度頭を下げた。


 視線をラナに移すと、彼女は目を見開いて驚いているようだった。

 ラナに相談することもなく、衝動的にパーティー脱退を決めたことにエトウは多少の後ろめたさを感じた。


 だが、自分などいなくてもラナはまったく困らないだろう。

 ラナが自分と距離を置いたように、エトウの方でも自分の言葉を信じてくれなかったラナに対して、精神的な距離が広がっていたのだ。

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