表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
603/651

35. マーレーの気まぐれ

 奇術師マーレーは領都ベールへもどっていた。その肩にはいつものように小さなゴーレムが乗っているが、途中まで旅の道連れだった気狂いピエロのカンナバーロはいない。お気に入りの勇者ロナウドのもとへ向かったからである。


 ロナウドは魔王との戦いで大怪我を負い、ベール城内で手当てを受けていた。ポーションを飲んだからといって、失われた血肉がすぐに回復するわけではない。今回のように怪我がひどいと、数日間は様子を見ないといけないだろう。


 マーレーは城の警備体制など気にした様子もなく、目当ての場所にたどり着いた。


「なんとも憐れな姿ですねぇ……」


 そこは寒風吹きすさぶベール城の屋上、あちこちに戦いの生々しい傷跡が残っている。そしてメイナードの亡骸もなんとか原型をとどめていた。とはいっても、人らしい形をした土塊があるだけだ。

 アービド二世に魔力タンクとして使われ、腐れ神を滅するという宿願を叶えることもできずに、メイナードはここで命を落とした。


「結局、腐れ神の体は、今代の魔王に取り込まれてしまいましたか。あなたは一体なにをしたかったのでしょうね。下手をすれば、腐れ神がよみがえってしまいますよ?」


 マーレーはメイナードの亡骸をゴーレムにしようかと思ったが、そんなことをしても意味がないとやめておいた。ゴーレムというのは、魔石に命令を刻んで動かしているに過ぎない。目の前にある土塊をゴーレムにしたところで、メイナードの命がよみがえるわけではなかった。


「せめてその体だけでも、魔王のもとへ連れていってあげましょう」


 マーレーの足元が土へと変わり、メイナードの亡骸を飲みこむようにして取り込んでいった。屋上にあった土塊がきれいになくなった頃、マーレーは背中に気配を感じた。その気配に対して背を向けたまま口を開く。


「気配を消すのがうまいですねぇ。あなたは誰ですか?」

「辺境伯様の執事を務めております、カマランと申します。私からもお尋ねしたいことがあるのですが、このようなところにいらっしゃるあなたはどちら様でしょうか?」

「長き生を得た者、そのうちの一人だと言えば、分かってもらえますか?」


 カマランは目を見開いたが、すぐに言葉を返した。


「……ええ。しかし、この土地は龍神セイ様の加護を受けております。あなた様はそれをご存知かと思いますが、そのうえでベール城にどんな目的があるのです?」

「そうですねぇ。どうしてこんなところに来てしまったのでしょうねぇ……」

「はい?」


 カマランが怪訝そうに眉をひそめるのを無視して、マーレーは魔力の残滓がいまだに残っている北の空を見つめた。


「古い馴染みがいましてね。その彼のことが気になったのですよ。愚かな男でした。本当に愚かで……悲しい男……」


 マーレーは独り言のようにつぶやいた。

 腐れ神への恨みだけを糧にして生きていたのがメイナードだった。それ以外のすべてを犠牲にした結果がこれである。死ぬ間際になにを思ったか、今となってはそれも知ることができない。


「……どうせ頭の中は、復讐だけだったのでしょうがね」


 片膝をついていたマーレーは立ち上がった。それと同時にカマランは身構える。


「なにもしませんよ。用事ができたので、行かせてもらいます」

「どちらへ向かわれるのか、お尋ねしても?」

「別にかまいませんが、つまらないことですよ。魔王に一矢報いてやろうかと思いましてね。ふふ、あなた方が言うところの敵討ちですよ。それでは、これで失礼しますね」


 マーレーは飛行魔法で浮き上がった。そして、もはやカマランには目もくれず、北の空へ向かって飛んでいった。


「カマラン様、追いますか?」


 姿を隠していたクールベがあらわれ、カマランに尋ねた。


「いえ、放っておきましょう。我らの手には余る相手です」

「はっ」


 長き生を得た者とは、ドラゴンやダンジョンマスターといった人知を超えた存在を総称した呼び方である。ベール城が魔王の襲撃を受け、勇者ロナウドも大怪我を負っている状況で、これ以上の問題を抱えるのは得策ではなかった。


「魔王の出現をきっかけに、あちこちで動きが出てきたようです。これらの動きは一体どこに行き着くのでしょうか……」


 カマランは険しい表情で北の空を見つめた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ