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14. ラナとムジーク教官

 その日、ラナは一人で騎士団の訓練場に来ていた。この城に初めてやって来てから半年間、みっちりと剣術を習った場所である。


 偶然居合わせた城勤めの騎士たちと剣を合わせてから、見晴らしのいい上階で休憩をとっていた。そこに騎士団団長ムジークが突然あらわれた。


「お久しぶりです。ご無沙汰してしまって申し訳ありません」

 ラナはムジークに頭を下げる。

「うむ、本当に久しぶりだ。うちの騎士たちを鍛えてくれたようだな」

「こっちが鍛えてもらいましたよ」


 ラナが剣聖としての力に目覚め、めきめきと剣術の力をつけていったとき、まともに相手ができる騎士は少なくなってしまった。

 昨日はほぼ互角に剣を合わせていたのに、今日になるとまったく勝てなくなるのだ。実力差があって危険なこともそうだが、若い騎士たちが自信を喪失してしまうのが問題となっていた。


そこでラナの教官に抜擢されたのが、当時、騎士団の副団長を務めていたムジークだった。

 ラナは思い切り剣を振るうことができ、尊敬できる人物でもあったムジーク教官に心を開いていた。


「エトウ殿のこと、聞いたぞ」

「そうですか……。この前、久しぶりにエトウに会いました。エトウは村にいたときのように生き生きとしていて、それに強くなっていました」

「うむ。以前には感じなかった覇気がある。大きな山を越えた者といった印象を受けた。ラナ殿は、ロナウド様のパーティーを去り、エトウ殿のパーティーに参加しようとは思わぬのか」


 ラナはムジークからラナ殿と呼ばれることに、いまだに違和感があった。教官と生徒だったときには、ラナと呼んでいたからだ。

 だが、女神様が選んだ剣聖や賢者を呼び捨てにすることはできないのだろう。


「エトウのパーティーメンバーにも紹介されて、彼らが作っている雰囲気はとても好ましいものに感じました。エトウたちと一緒に戦うのも、やりがいがありそうですね」

「ならば、なぜそうしない?」

「私はロナウド様を支えていくと決めたからです」


 ラナはまっすぐな瞳でムジークを見た。その強い眼差しには、彼女の決意があらわれているようだった。


「ロナウド様は人を近くに寄せつけず、自分本意で物事を決めてしまうところがあります。それが後に大きな問題へと発展することも少なくありません。ですが、ロナウド様はそれが本当に必要なことだと信じているように見えます」

「本当に必要なこと?」

「はい。エトウのことで誤解を恐れずに言えば、勇者パーティーは民を安心させられるだけの強さを持っているべきだと、ロナウド様は信じているのです。だから、当時は戦闘力があまり高くなかったエトウの存在を、認めようとはしませんでした」

「ふむ」

「そして、女神様に賢者として選ばれて勇者パーティーに所属しているのだから、自分ができる最大限のことでパーティーに貢献すべきだと、心から信じていたのだと思います。有効でない補助魔法を禁じて、それ以外の方法でパーティーの役に立つのが当然だと、少なくとも最初のうちは考えたのでしょう。それが後々、エトウを見下すような態度につながってしまいましたが」

「なるほど」

「その間、私はロナウド様をいさめることも、エトウを助けることもせずに、その場の状況に流されてエトウの悪評を信じてしまいました。最低です」


 ムジークは時折あいづちを打つだけで、黙ってラナの話を聞いていた。ラナは慰めの言葉を求めていないと感じたからだ。


「でも、その経験があるからこそ、私は私ができることを、今ここでやらなくてはいけないと思います。私は勇者パーティーの剣聖ラナです。ロナウド様を支えていくことが私の役目なんです」

「ロナウド様は以前よりも精神的に不安定な印象だ。エトウ殿が受けたような差別的な対応を、今度はラナ殿が受けてしまうかもしれぬぞ」

「ムジーク様、ロナウド様が精神的に不安定なのは、ずっと前からですよ。私はお会いしてすぐに気がつきました。これはミレイ様とも意見が一致しています」

「そうなのか? 私には気がつけなんだが」

「ロナウド様は大丈夫です。私たちは王城での訓練から魔物討伐の旅まで、確かな絆を作ってきました。エトウをそこから弾いてしまったのは私たちの罪ですが、それでもロナウド様、ミレイ様、私の三人には、お互いを思いやる気持ちが育っていると信じています」

「そうか。そこまで気持ちを決めていたのだな」

「はい」

「ならば、もうなにも言うまい」

「心配して頂いてありがとうございます」

「久しぶりに稽古をつけてやろう。訓練場へ行くぞ」

「ムジーク教官、お願いします!」

「教官は、もう止めてほしいのだが……」

「だって、騎士団の副団長なんて肩書教えて頂けませんでしたよ。私にとっては、剣術指導をしてくれたムジーク教官です!」

「分かった。訓練を行うときだけは、好きに呼べばよい」


 ムジークは目元をゆるませると、ラナと一緒に訓練場への階段を降りていった。

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