21. 扉と階段
朝になるのを待って、エトウは一人で世界樹の神殿へ向かった。昨夜見たものがただの夢とはとても思えなかった。地下へと続く階段があるのかどうかだけでも、直接行って確かめたかったのだ。
神殿には礼拝堂を掃除しているエルフたちがいた。顔見知りになった男性のエルフがエトウに気づいて首をかしげる。
「エトウさん、こんな朝早くにどうしました?」
「おはようございます。ちょっと気になることがありまして……。カミーラ様とお会いできますか?」
「ええ、大丈夫だと思いますよ。確認してきますね」
その男性が掃除を中断して奥へ向かおうとしたので、エトウは慌てて止めた。
「あっ、いや、自分で行きますよ。邪魔してすみません」
「そうですか? 気にしなくてもいいですよ」
男性はにこにこ笑って応じた。
エトウはいつもの習慣で祭壇に祈りを捧げた。左の廻廊の方を眺めたが、そこからでは奥に扉があるかどうか分からなかった。扉があってもなくても、まずはカミーラに確認をとっておいた方がいいだろう。右の廻廊へと進み、『試しの儀式』で使われる部屋へと向かった。
「なんだエトウ、今日は早いではないか。里を出て行く前に、美しい私の顔でも拝みにきたのか?」
カミーラは朝から元気だった。精霊に朝も夜もないのかもしれない。
「あ、いえ、違うんです」
「違うだと?」
「いえ、まぁ、そうです。カミーラ様に会いにきました」
「ふふ、そうであろうとも」
『試しの儀式』で何日もしごかれた相手である。エトウはカミーラのペースに合わせるしかなかった。
「して、何用だ? わざわざここまで来たのだから、なにかあるのであろう?」
カミーラは表情をあらためて言った。こういう調子で話が早く進むのがいいな、とエトウは心の中で感心した。
「残念ながら、ピュークの意識はまだもどらぬぞ」
「ええ、もちろんピューク様のことも、あらためてお聞きしようと思っていたのですが、それとは別件なんです」
「ほう、なんだ?」
「昨夜、おかしな夢を見まして……」
「夢、とな」
エトウは夢の内容について話し始めた。荒唐無稽な話だと切り捨てられるかもしれない。だが、ここまできて躊躇しても仕方がなかった。
話を聞き終えたカミーラは、鋭い目でエトウを見つめた。
「エトウ、その地下へと続く階段のことを、どこかで耳にしたことがあるのか?」
「いえ、ありません」
「では、夢の中で初めて知ったと?」
「その通りです」
「うーむ、にわかには信じられん話だな……」
カミーラは腕を組んで考え込んでしまった。目をつむって、エトウの存在など忘れてしまったかのようだ。
エトウは手持無沙汰のままでじっと待った。地下へ続く階段があるのかないのか、それがとても気になった。
「うん、いくつか思い当たることはあるが、ここで考えていても結論は出んな。とにかく行ってみるか」
カミーラはふっきれたような顔でそう言い、エトウをうながして部屋を出た。半透明な体がふわふわ浮きながら廊下を進んでいく。礼拝堂へ出ると、エルフたちがカミーラに頭を下げてあいさつをした。
「ああ、かまわんから、作業を続けてよいぞ。いつもご苦労だな」
「ははっ」
エトウたちは中央の通路を横切って、左の廻廊へ進んだ。廻廊のつきあたりに簡素な扉が確かにあった。遠くからでは周囲の木材と同化してしまって、そこに扉があることも分からないくらい目立たなかった。
「これです! この扉です!」
夢で見た扉と同じだったので、エトウの声が自然と大きくなる。
「ふむ、間違いないか?」
「間違いありません」
カミーラが先に立って扉を開ける。霊体なのに扉にさわれるのは、いつ見ても不思議だった。
扉の先は物置小屋で、その奥の床が四角に切り取られたようになっている。地下へと続く階段だった。エトウが見た夢とそっくり同じ光景が広がっていた。
「……どういうことなんだ?」
あまりに夢と同じだったため、エトウはかえって冷静になった。誰が自分に夢を見せたのか、その目的はなんなのか、夢の意味とはなにか、といった疑問が次々とわいてくる。それを中断させたのはカミーラだった。
「考えても結論は出ないと言ったであろうが。そら、行くぞ。ついてこい」
カミーラは階段を下り始めた。
「あ、待ってくださいよ」
エトウは置いていかれないように急いで階段に足を踏み入れた。




