7. 自分の目で
「王城と教会の連絡係が、どうしてそんな嘘をついたんだ? そんなことをする意味がないだろ」
それはエトウが初めて聞く話だった。冒険者ギルドでの調査報告でも、そのようなことは伝えられなかった。
「彼らには賭け事で作った借金があったそうよ。エトウの報酬や旅の経費を着服して、借金の返済に充てていたらしいわ」
「なんだって? そんなばかな……」
「調査でそのことが判明した後、彼らは厳しい処分を受けたわ。ロナウド様やミレイ様は、エトウの報酬のことはまったく知らなかったそうよ」
「それは勇者様が罪を押しつけたんじゃないのか。あれでなにも知らなかったなんて、とても信じられないぞ」
「私も最初は信じられなかったわ。エトウの悪い噂がすべて嘘だったと聞かされたときには、ロナウド様かミレイ様がパーティーからエトウを追い出すためにやったことだと疑ったの。だけど、お二人はお金の流れがどうなっているかとか、全然気にしないのよ。私には、お二人がそんな回りくどいことをするようには思えないの」
エトウは王城の連絡係を務めていた目つきの鋭い女性の顔を思い出していた。何度も報酬を渡してほしいと願い出た相手だった。
そして、報酬がなくて困っているならば、自分で魔獣を狩って食費にあてればいいと、見下したような目で言ったのもその女性だったのだ。
彼女の上司も、教会の連絡係もその意見に同意していた。
「そうか……。あいつらが元凶だとしても、やっぱり勇者様が無関係とは思えない。自分を邪魔に思っていたことは間違いないんだ。あのパーティーはすべてが勇者様を中心に回っていた。あの人の意向に従う形で、連絡係が俺を差別していたんじゃないのか?」
「……これは私の感じたことだけど、もしも連絡係が誰かの影響を受けて、エトウを横領の標的に選んだとするならば、それはミレイ様の責任が大きいと思う。ミレイ様は事あるごとにエトウを見下すような態度を取っていたでしょ?」
「ああ……」
「私はパーティー内でもめるくらいならば、食事を別々の場所でとることで、エトウとミレイ様の距離を離した方がいいと思っていたの。エトウに対するミレイ様の態度は、それぐらい目立っていたわ」
「それを言うなら、勇者様が俺の補助魔法を禁じたことも大きいだろ? あの頃の自分は確かに未熟だったけど、魔法を禁じるというのは嫌がらせに近いんじゃないか」
「そうね。ロナウド様がエトウを実力不足だと決めつけて、自分の価値観を押しつけていたことは、さっきの模擬戦で十分理解されたと思う」
エトウは目をつむり、大きく息を吸って吐いてを繰り返した。頭に血が上っていたのが、少しずつ落ち着きを取りもどしてきた。
この場で一体なにが真実なのか明らかにすることはできそうにない。
ラナの話が本当のことなのかもしれないし、ラナは真実を伝えられていないのかもしれない。
自分が差別を受けた真相は気になるが、ここでエトウがラナに訊きたいことは一つだけだった。
「ラナは今でも勇者様を信じているのか?」
「ええ……。この世界に危機が迫ったときに、それを退けられるのはロナウド様だけだと信じているわ」
ラナはそう言うとエトウの目を見つめた。エトウもラナを見つめ返す。
ラナが勇者について語ったことは、かつてのエトウが信じていたことでもあった。世界の危機を救える唯一の存在が勇者であると。
それは伝説で語られる勇者への憧れから始まり、実際にロナウドの立ち居振る舞いや戦闘力を見てその思いを強くした。
訓練期間中、過去の勇者たちが世界の危機を何度も救っていることを学んだのも大きかった。
エトウがすでに捨ててしまった勇者への期待や信頼を、ラナは今も失っていなかったのだ。
「そうか……」
「うん……。ごめんね」
「いや、いいんだ。人をどう思うかなんて、自分の目で見て決めればいいんだ。それがラナの判断なんだろ?」
「うん」
ラナと向き合って、お互いの本音を言い合ったことはこれまでなかったかもしれない。エトウはこうして正直に語り合えたことはよかったと思っていた。




