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勇者パーティーを追い出された補助魔法使いは自分の冒険を始める  作者: 芝いつき
第21章 エーベン防衛戦 ~国境沿いの攻防~
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36. 部隊編成 3

 十個の精鋭部隊のうち、エトウがリーダーを務める第三小隊は、剣士三人、盾士二人、弓士三人、魔道士二人の合計十人となった。

 第一小隊にはロナウド、第二小隊にはラナとミレイ、第五小隊にはロブ部隊長、第十小隊にはイザベラが配属されている。あとは王国騎士団、王国魔法士団、エルフ弓兵隊から精鋭が選出された。



【第三小隊】

・剣士……エトウ、レオンハルト(王国騎士団)、ブラッド(王国騎士団)

・盾士……アモー、モルリッツ(王国騎士団)

・弓士……ソラノ、ミモザ(エルフ弓兵隊)、トルノ(エルフ弓兵隊)

・魔道士……ブルーノ(王国魔法士団)、テリオス(王国魔法士団)



 自分がやりやすいようにメンバーを選んでくれたんだな、というのがエトウの第一印象である。


 剣士のレオンハルトとブラッドは下級貴族出身で、エトウたちに対しても上からの態度はとらなかった。二人は幼い頃からの友人関係らしい。気さくに話しかけてきて、あまり距離を感じさせない者たちだった。

 盾士のモルリッツは大柄な騎士で、辺境伯領で内戦が起きたとき、アモーが盾士として騎士たちを指導したことを知っていた。そのため、最初からアモーを慕う態度だった。

 魔道士のブルーノとテリオスは、エトウがトーワ湖上で敵の大魔法に対処した姿を見ていたらしい。それに加えてピュークの薫陶もあり、エトウと一緒に戦えるのが光栄だと言った。


 ただ、ソラノと二人の女性エルフの間に多少の問題が起きた。

 ミモザとトルノは、ソラノが里のために自らを奴隷に落としたことも、辺境伯領の内戦で見せた超長距離射撃のことも、話としては耳にしていた。だが、それはあくまで又聞き程度だったため、ソラノが貴重な武器である世界樹の長弓『鈴鳴り』を保持していることに不満を述べたのである。

 彼女たちにしてみれば、里を出て冒険者活動をしている者が世界樹の長弓を持っていて、里のために働いている自分たちがそれよりも一段下の装備であることが不満だったようだ。


 世界樹の長弓は、ソラノが兄であるサニーから戦争前に託されたものだ。それは妹の身を心配したサニーの優しさだった。他人にどうこう言われる筋合いのものではない。

 ソラノもそう思ったようで、いつものように言葉と態度でそれを示した。


「文句があるなら腕比べをしたらいい。剣と弓、どっちからでもいいけど?」


 姉弟子のイザベラを判定人にして、剣と弓の腕比べを行った結果、ミモザとトルノはソラノの実力に及ばなかった。

 エトウから見ても、二人はぼこぼこにされた感じである。こういうときに手加減なしなのは、いかにもソラノらしい。上下関係がはっきりした後は、同族らしい連帯が生まれたようである。


――やれやれ、誰だ、エルフは平和を愛する森の守護者なんて言った奴は? めちゃくちゃ好戦的じゃないか!


 エトウは小隊のメンバー間であつれきが生じてしまうのを心配したが、エルフの腕比べなるものを止めるのはまずい気がした。後々までしこりが残りそうな予感がしたのである。

 腕比べが終わった後、ソラノたちが握手をして笑い合っているのを見て、エトウはほっと胸を撫で下ろしたのだった。





 それから小一時間後、エトウたちが遅い昼食をとっていると、王国軍の陣地がにわかに慌ただしくなった。帝国軍がこちらに向けて進軍を開始したとの報告が斥候よりもたらされたのだ。


「エトウ隊長、いよいよですな」


 レオンハルトが右手で拳を握り、バンと力強く左手を打った。今年二十六歳だという彼には、こういった若々しい態度がよく似合う。ブラッドもすっくと立ち上がり、気合い十分な表情を見せていた。

 アモーとモルリッツはそれぞれの大楯を背負い、ブルーノとテリオスは一メートルほどの長杖を持った。魔法を発動するのに杖を使う冒険者はまれなので、エトウもいわゆる魔道士スタイルを感心して眺めた。

 エルフ三人娘は弓を肩にかけ、腰には剣も帯びている。ミモザとトルノは心なしか緊張した様子で互いにうなずき合った。

 それと好対照なのはソラノだ。あまりにもいつもどおりの表情だったので、エトウがじっと見ていると、ソラノは怪訝そうな顔をした。


「なに?」

「いや、ソラノは緊張してるか?」

「なんで?」

「ゴ、ゴホッ、いや、なんでもない」


――鉄の心臓だな。まぁ、知ってたけどね。


 エトウは第三小隊のメンバーを見渡して言った。


「配置についての指示は受けています。我々が出撃するのは先鋒同士の戦いが始まった後になりますが、とりあえず配置場所に向かいましょうか」


 皆がうなずいたのを確認してから、エトウは先頭に立って歩き始めた。

 そのまま司令部のテントを離れようとしたところで中からピュークが出てきた。


「ああ、エトウくん、今出るところですか?」

「はい、行ってきます」

「西の風が強くなっていますから、遠距離攻撃の距離感には気をつけてくださいね」


 上空ではビューンとか、ゴォーとかいう風の音が絶えずしている。

 かなりの強風が吹き始めていた。辺境伯領の民がこの季節の西風を大風と呼ぶのももっともなことだ。


「ご忠告ありがとうございます。敵の大魔法は、ピューク様に貸していただいたアラゴンの大楯ではね返してやりますよ」

「ふふ、頼もしいですね。アモーくんも、大楯の感想を楽しみにしていますよ」

「ああ、大事に使わせてもらう」


 エトウたちはピュークに別れを告げて森の中にある待機場所へと向かった。


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