15. 夜襲
ロナウドが急いでテントの外に出ると、巨大な炎の塊が夜の闇を切り裂いて王国軍の陣地を襲っていた。
「なんだ、あの大きさは……!? それより、なぜ後方に敵がいる。見張りはなにをしていた!」
ロナウドの叫び声に、最初に反応したのは魔道士のグラシオラだった。
「ロナウド様、あの大火球はただごとではありません! 第一級の魔道士による魔法攻撃だと思われます!」
「グラシオラ、魔法で迎撃できるか?」
「申し訳ありません。私の力では難しいかと。あれはピューク団長クラスの攻撃魔法です。この場所に留まっていれば、我らは陣地ごと燃やし尽くされてしまいますぞ」
「ならばどうする?」
そのとき、ミレイが陣地後方へ向けて走り出した。
「ロナウド様、私におまかせを!」
「なっ!? ミレイ、待て!」
なるほど、ミレイの極大魔法ヘルフレイムならば、飛んでくる大火球を無効化できるかもしれない、とロナウドは瞬時に思った。だが、魔道士が不用意に敵に接近するのはかなりの危険がともなう。
「ミレイ様は、私が!」
数歩で加速態勢に入ったラナがロナウドに叫んだ。
ラナはあっという間にミレイに追いつくと、二人並んで駆けていく。ラナがいるなら近接戦闘で不覚をとることはないだろう。
「頼んだぞ!」
ロナウドは大声で言い、再びグラシオラとティーダがいる方へ視線をもどした。
「ロナウド様、私も仲間と合流する。その後、どちらの方角へ向かえばいい?」
こちらもすぐにでも駆けだそうとしているイザベラが尋ねた。
ロナウド様ときちんと名前を呼ぶようになったのはいい――前は勇者としか呼ばなかった――が、その体勢は思いきり半身で失礼きわまりない。早く仲間のもとへ向かいたいから、さっさと指示を出せと言わんばかりだ。
ため息を飲みこんだロナウドは顎に拳を当てて考える。
「そうだな……攻撃が後ろからだけ、ということはありえない。ティーダ、歩兵隊とエルフ弓兵隊を率いて砦側に向かえ。もう遅いかもしれんが、挟撃によって陣地が蹂躙されるのは防がなければならん」
「はっ!」
「イザベラはティーダの指示に従ってくれ。攻撃目標は、西の砦方面にいる敵部隊だ」
「分かった!」
「グラシオラ、混乱した兵たちをまとめるぞ。私と一緒に来てくれ」
「承知しました。しかし、ミレイ様とラナ様が向かわれた先はよろしいのですか?」
「兵が落ち着きを取りもどしたら、私がそちらへ向かう。どれほどの力を持った魔道士がいても問題ない。私は魔道士の天敵らしいからな」
それはエルフの里で『試しの儀式』を終え、聖剣の力をさらに解放し始めたロナウドを評して、グラシオラがもらした言葉だった。
ロナウドが放つ聖剣の一振りは、魔法攻撃さえも斬り裂いて無効化してしまう。
遠・中距離から攻撃をしたい魔道士にとってみれば、苦もなく距離をつぶされ、近接戦闘でとどめを刺されるという悪夢のような相手であった。
その後、ロナウドは言葉どおり、陣地を東から西へ馬で駆け回った。
勇者であるロナウドが一喝することで、貴族や兵士たちの混乱も収まりを見せていた。
しかし、そこに新たな懸念材料が持ち上がる。
「ロナウド様、砦側に布陣しているティーダ様より伝言がございます!」
ティーダからの伝令が、陣地内を動き回っていたロナウドのところまでやって来たのだ。
「うむ、申してみよ」
「はっ。北から帝国軍の騎馬隊が急襲。砦の正門が開いていないことから、帝国軍が出入りできる場所が別にあるのは明白。その騎馬隊の一部が、こちらの防衛線を抜けて陣地に入りこんだ、とのことです」
「ちっ! やはり間に合わなかったか。それでティーダたちはどうしている?」
「はっ。ティーダ様はくずれてしまった陣形を整え、新手の敵軍に対抗しています。陣地内に入りこんだ敵の一団については、その居所を捜索中とのことでした。伝言は以上となります」
「そうか、ご苦労だった」
ロナウドは、自分たちが敵の後手に回ってしまっている状況に危機感を覚えた。
「ロナウド様、あちらと、それにあちらもご覧になってください!」
一緒に行動しているグラシオラが、陣地の前方と後方を交互に見ながら指を差した。
「なっ!? 火魔法だけではなかったか」
敵からの魔法攻撃は先ほどまでの火魔法だけでなく、水魔法と土魔法も加わって激しさを増していた。




