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11. 攻勢

 決行日の朝、エトウたちはいつも通りに宿で朝食を済ませて集合場所の東門に向かった。普段と違うことをしてリズムをくずしたくなかったのだ。

 街中を警備している兵士に尋ねると、ゴブリンは先程まで夜通し攻め続け、朝日とともに森の中へ姿を消したという。


 東門前の広場に到着すると、『光の矢』と『荒神のほこら』の面々はすでに来ていた。軽くあいさつを交わして、他の者たちがそろうのを待つ。

 そこには多くの騎士や兵士たちが慌ただしく動き回る姿があった。


 今日は東門付近に厳戒令が敷かれ、住民の外出が禁じられていた。一度城門を開くことになるため、大事をとって警戒を強めたのだ。

 間もなく騎士団の精鋭と、ピュークを先頭に魔道士たちもやって来た。そして、馬のひずめの音を辺りに響かせながら、二千人の騎兵隊が東門前の大通りに整列していった。


 宰相ビスマルクが国王からの激励の言葉を伝え、王国騎士団団長も決死隊のメンバーを鼓舞した。

 すでに城外で索敵を始めている斥候部隊からは、異常なしの報告が届いている。

 いよいよ東門が大きく開かれて、二千人の騎兵隊が城門の外に布陣していった。


 騎士十人を先頭に、エトウたち冒険者十三人と魔道士五人もそれに続く。

 全員が馬に乗っているが、乗馬経験がとぼしいコハクはアモーの後ろに騎乗していた。A級パーティーの冒険者たちは全員が器用に馬を乗りこなしている。


 決死隊の主要メンバーが騎兵隊の中央にたどり着くと、いよいよ出撃の合図が出された。

 これまではゴブリンの猛攻に対して守勢に立たされていたが、初めて王国側からの反転攻勢が行われるのだ。

 声をかぎりに出撃を叫ぶ騎士や兵士たちは、緊張しながらも戦闘の興奮を高めていた。


 決死隊はゆっくりと進み始め、勢いがつくと並足程度で森の中に突入した。

 王都付近の森は人の手で伐採が進んでおり、木と木の間隔が広く、下草もあまり生えていない。自然の森に比べて馬を操りやすい環境だった。

 一行はどんどんと森の奥に向かって行く。目指すは新しく発生したダンジョンの入り口である。


 目的地まで半分を過ぎた頃、騎兵隊の左側面からゴブリンの襲撃があった。騎兵隊は速度をゆるめず、あくまで先に進むことを優先する。

 それから何度も両側や正面からの襲撃があり、騎兵隊はその度に数を減らしていったが、前進の速度がゆるむことはなかった。

 部隊中央で力を溜めている決死隊の主要メンバーを目的地に送り届けるため、騎兵隊の者たちは身を犠牲にしてすべての襲撃を引き受けたのである。


 もうすぐダンジョンの入り口に到着するというときに、決死隊の両側から挟み込むように大量のゴブリンが殺到した。

 騎兵隊の隊長は軍を左右二手に分けると、そのまま突撃命令を下した。そして、迎え撃つように前方に布陣しているゴブリン部隊に対して、少ない手勢を率いて自らも突撃を仕掛けたのだ。

 決死の覚悟で突き進む騎兵隊の勢いに、ゴブリンたちは左右に切り裂かれていく。だが、多勢に無勢の感は否めず、次第にその勢いは失われていった。


「このまま進んでくだされ!」


 騎兵隊の隊長は叫び声をあげると、左右の敵勢からエトウたちを守るように壁を作った。

 隊長に続いていた部下たちも、それぞれが場所を受け持ってゴブリンの接近を押し止める。


「すまん! 先に進む!」


 騎士団の精鋭の一人は隊長の言葉に応じると、そのままゴブリンの群れを突き進んだ。それまで溜めていた力を爆発させるように、先頭の騎士たちは前進の速度を上げる。


 エトウは決死隊のメンバーにストレングス、マジックフォース、ヘイストのバフを重ねがけしていく。

 冒険者の前衛は集団の前に移動し、後衛は魔法と弓で周囲の敵を減らしていった。

 それでもゴブリンの数はあまりに多く、騎士たちが進むスピードが落ちると、ゴブリンによる包囲網が次第にせばめられていった。


 このままではまずいと誰もが思ったときに、エトウは決死隊周辺のゴブリンに対して、視界をふさぐダークをかけていった。


「剣を上に!」


 ゴブリンの圧力が少し弱まったのを確認すると、エトウはあらかじめ決めておいた合言葉を叫んだ。

 前衛職の者たちは、剣や槍などの自分の武器を素早く頭上にかかげた。そのすべてにエトウは火魔法のエンチャントをかけていく。


 後衛職の者は、弓と矢で最前列のゴブリンを攻撃して時間を稼いだ。

 エンチャントによって攻撃力の上がった騎士と冒険者は、無理にでも前進の速度を上げようとした。豊富な実戦経験から、ここが勝負所だと見極めたのだ。


 補助魔法は対象となる人間や武器の数が多いと使用する魔力量も多くなる。そのため、こういった使い方は何度も繰り返すことはできない。

 エトウはマナポーションを口に含みながら、どうかこのままゴブリンの群れを抜けてくれと強く願った。


「抜けたぞ―!」


 前方の騎士から叫び声が聞こえた。後に続く騎士たちも、ゴブリンの群れを抜けたことを大声で報告している。


 部隊の後衛付近にいたエトウも、その後すぐにゴブリンの群れを抜けた。

 進行方向には木々がほとんどない開けた場所が見える。その先に地面がこんもりと盛り上がったような洞窟の入り口があった。

 あれが新しくできたダンジョンだろう。強い魔力が周囲に漂っている。


 ダンジョンの入口を塞ぐように立っているのは、白い肌をしたゴブリンだった。そのゴブリンは、血が滴るような赤い瞳を光らせて「キキキ」と口を歪ませる。

 体の大きさは通常のゴブリンと変わらない。武器も持たずにただ立っているだけである。だが、その全身から感じられる魔力量は尋常なものではなかった。

 エトウは激戦の予感を覚えながら赤目を油断なく見つめていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] やや淡々とした印象ですが、安定したストーリー展開なので今後も楽しみにしています。 [気になる点] 会話の描写で、「〜〜」と、誰々は言った。という風に書かれる事が多いのが野暮ったく感じます。…
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