8. 籠城戦
尖塔の外、城壁付近がにわかに慌ただしくなってきた。いよいよゴブリンの第二陣が姿をあらわしたのだろう。
尖塔から城壁に移動するための通路があるというので、ピュークに連れられてエトウたちは東の城壁の上に登る。
光源を作るライトの魔道具に照らされているのは、街道を埋め尽くすゴブリンの大群だった。
敵の規模が分からないうちに、城門から外に出て戦うのはリスクがある。そのため王国上層部は城壁を有効に使った籠城戦を行うことを決定した。
ゴブリンたちの攻め方は単純だ。
城門に迫り、それを破ろうとするか、仲間の死骸を踏み越えて城壁に登るか、その二パターンだけ気をつけていればいい。
魔法を使うゴブリンメイジや、弓矢を使うゴブリンアーチャーもかなりの数いるようだが、彼らの攻撃は城壁と魔法による防御壁を越えてくることはなかった。
城壁の上から魔法と弓矢を中心に、槍や落石、煮え湯などでゴブリンの進行を阻んでいけば、町の中への侵入を阻むことができた。
しかし、時間がたつにつれて守備側は数の脅威にさらされることになるだろう。体力や魔力は無限に続くわけではなく、矢の在庫にもかぎりがある。
さらに、ゴブリンたちは城壁にすがりつくように亡骸をさらすため、それらが積もり積もって小山のようになっていた。
その小山が東と南の城壁に接するようにいくつか出来始めている。守備側は、ゴブリンが小山を登って城壁の上に達することを警戒していた。
小山をくずすために城壁の外に出る訳にはいかない。そんなことをすれば、たちどころにゴブリンの群れに囲まれて皆殺しにされるだろう。
具体的な対応策もないままに守備側の必死の抵抗は続き、東の空からは朝日が顔を出し始めた。
するとゴブリンたちは太陽の光を嫌うように東の森へと撤退を始めたのだ。
「なんだ? ゴブリンは撤退を始めたのか? まだまだ数はいたようだが、なぜ今の状況で撤退するのだ。もう一押しすれば、城壁の上にたどり着けた可能性もあっただろうに」
ピュークはゴブリンの不可解な行動に首をひねる。夜通し魔法攻撃と防御を繰り返していたはずなのに、ピュークにはまだ余裕があるようだった。
「まるで日の光を嫌って撤退したように見えましたね。それとも、攻撃は朝までとあらかじめ指示を受けていたのか? しかし、そうなると攻撃時間といった複雑な命令もゴブリン同士で共有できることになりますね」
ピュークの隣でエトウも考え始めた。
二人がゴブリンの群れを一時忘れて思考に没頭している間にも、街道から魔物の姿は消えていった。
その夜の襲撃においては、エトウは騎士団の弓士を中心に筋力強化のバフと矢へのエンチャントを行い、魔道士には魔法攻撃力を底上げするバフを行っていた。
ソラノは弓士として精密な射撃を行い、ゴブリンの上位種を狙い撃ちにした。
アモーは城壁の上から石や煮え湯を落とす役目を担い、コハクはもしものときのためにエトウの護衛についていた。
防衛側はゴブリンの大群が王都に攻め入るのを見事に阻止したのだが、騎士や兵士たちに喜びの表情はない。まだ大量のゴブリンが森の中に潜んでいることが分かっていたからだ。
周囲の索敵を十分に行い、付近にはゴブリンの群れがいないことが明らかになると、城門を開いてゴブリンの死骸の片付け作業が始められた。
ゴブリンの襲撃はそれから毎晩続くことになる。
ゴブリンの群れは日が沈んだ頃に街道にあふれ出し、夜を徹して王都を攻撃してくるのだ。そして朝日が出る頃になると森の中に撤退していく。
この規則正しい行動の意味を軍事や魔物の専門家が考察しているのだが、いまだ説得力のある答えは出ていないようだった。
ゴブリンの撃退に成功しているとはいえ、王国上層部はこのような事態が続くことを看過することはできなかった。
毎夜の襲撃が続けば守備側の疲労は増していく。矢やポーション、食糧などの消耗品の補充も考えなければならない。
これまで昼間の襲撃はないとはいえ、ゴブリンが攻め方を変えることもあり得る。通常のゴブリンは昼間にも活動する魔物なのだ。
王都を中心にした周辺の商業活動にも多大な影響が出ており、このままの事態が長く続けば経済的損失はますます大きくなっていくのは間違いない。
なんらかの有効な打開策が求められていた。




