10. 少女たち
「私はもう子供ではありませんよ」
キーナレーンは、穏やかではあるが毅然とした声で言った。
どうやらエトウとマッシュの話を聞いていたようである。
その肩にはいまだカーブが乗っているが、先程までの少女らしい表情は消えていた。
エトウは彼女の真意を確かめるようにその目をじっと見つめる。
その水色の瞳には、彼女自身の感情があらわれていると感じた。
「失礼しました。あなたをご不快にするつもりはなかったのですが」
エトウは素直に謝罪する。
「ご心配頂いたようですので、不快な気持ちにはなっていません。ただ、私としては聖騎士団に担ぎ上げられているように思われたくはないのです」
「……ご自身の意志でご一緒していると?」
「ええ。間違いなくそのとおりです」
「今回、聖騎士の一人が、いろいろ事情はあったとはいえ、王国騎士に対して暴力的な行為に及んでいますが、その責任についてもあなたは引き受けるということですか?」
「はい。だからこそ、私はここにいるのです」
「ほう、なるほど」
エトウはこれまでの見方をあらためなければならないと思った。
キーナレーンは騙されているか、自分の意に沿わぬ形で帝国の作戦に利用されていると考えていたが、それは間違っていたようである。
彼女が騙されているという懸念はまだ消えないが、聖騎士たちに強い仲間意識を持っているのは確かだった。
キーナレーンは、肩に乗っていたカーブを優しい手つきでひざの上に寝かせた。
カーブは、相手が女性だと馴れるのが早い。
その相変わらずの態度に、エトウは文句の一つも言ってやりたいところだが、先程、従者から守ってもらっているので我慢した。
「カーブは人懐こいですね。それほど長く一緒にいる訳ではないのですよね?」
「うん。まだ数週間だね」
「キキッ」
「あら? カーブは、コハクさんの言っていることが分かるみたいですね」
「けっこう伝わるよ。カーブは頭がいいからね」
「キューキュー」
カーブは褒められてうれしいような鳴き声をあげる。
「賢いのねぇ」
「聖女様は今年成人でしょ? 私、来年、職業判定の儀式なの」
「あら、じゃあ、一歳しか違わないですね。だったら、私のことも名前で呼んでください」
「いいの? それじゃ、キーナレーン様?」
「村では――」
「ゴホン! ゴホン!」
キーナレーンがなにか言いかけたが、マッシュの咳払いで途中までしか聞こえなかった。
「そうでしたね……私は小さい頃、キーナと呼ばれていました。そう呼んでもらえるとうれしいです」
「キーナね。じゃあ、私のこともコハクって呼んで。同い年くらいの子って周りにいないから、うれしいかも」
「私もです! よろしくお願いしますね、コハク」
「なんだか固いなぁ。敬語はいらないよ」
「ふふ。つい癖で。コハク、よろしくね」
「うん、よろしく!」
「キキッ!」
「まぁ、カーブもよろしくって言ってますよ」
女性たちは和やかなムードで談笑していた。
聖女をキーナなんて呼んでしまっていいのかと隣に座るマッシュを見たが、特に気にしている様子はない。
コハクならば、周囲の状況を見ながら、呼び方を変えることもできるだろう。
エトウは過度に心配するのをやめた。
マッシュの向こう側では、もう一つのグループが喧々諤々のやり取りを続けている。
エトウは、ふーと深いため息をついた。
いい年をした大人たちは相手を理解しようともせず、自分の主張を訴えるだけ。
その一方で、少女たちはすぐに打ち解け、魔物であるカーバンクルまで仲間に加えている。
「マッシュさん、あちらのテーブルとこちらのテーブル、どちらが望ましい光景ですかね?」
「……」
エトウは意地悪な質問だと分かっていても訊かずにはいられなかった。さすがにマッシュからの回答は得られなかったが。
結局、拘束されていた聖騎士は釈放されることになった。
ベイルート侯爵や聖女まで抗議に来たとあっては、アンドレアたちも手ぶらで帰す訳にはいかなかったようだ。
ベール騎士団は勇み足を踏んだことで面目がつぶれた形となった。




