6. 能力の確認
翌日の朝、宿で早めの食事をとったエトウたちは、ギルドの訓練場に向かった。
すでにそれぞれの能力についてはパーティー内で情報を共有しているが、エトウの補助魔法などは実際に体験してみなければ分からない部分が多い。
装備が整うまでは町の外に出ることもできないため、まずはギルドの訓練場でいろいろと試してみようという話になったのだ。
依頼書を奪い合う冒険者の間をすり抜けて、エトウたちはギルドの奥に作られた訓練場に向かった。
楕円形の屋内訓練場は地面がしっかりと踏み固められており、大人数の演習にも耐えられるような造りになっている。訓練場の端には弓矢と攻撃魔法用の的が置かれ、その反対側には刃引きされた剣や斧が棚に並んでいた。
エトウたちはお互いの実力を確かめるために、まずは剣を合わせてみることになった。
エトウが補助魔法なしで戦った結果、予想したとおりに戦闘技術とパワーでアモーの能力は抜きん出ていた。
二刀流のコハクはパワー不足の面はあるが、かなりのスピードと父親譲りの格闘センスを持っている。
ソラノの短剣術はかなりの熟練度に達しており、エトウの剣術レベルではソラノの防御を突破することができなかった。
この四人の中ではノーマル状態のエトウが最弱であることが確認できた。
次に、エトウの補助魔法をいろいろと試してみた。
エトウが自分にバフ効果を付与して戦うと、三人を手玉にとることができた。
しかし、アモーが本気になって大剣を振り抜いた場合、勝負がどうなるかは分からなかった。あくまで模擬戦においては、エトウのスピードにアモーまでもが翻弄されたのだ。
エトウはパーティーメンバーにさまざまなバフ効果を付与して、剣や弓を使った動きを確認してもらった。
ソラノは補助魔法をかけてもらったことがあるそうだが、アモーとコハクは初めての経験だったためにかなり驚いていた。
ソラノにおいてもここまで効果の高いバフは初めてだったようで、筋力強化のバフや身体能力強化魔法との併用、矢への風魔法の付与など、補助魔法の組み合わせを試しながら矢を放っていた。
最後に、パーティーメンバー全員にデバフ効果を付与することになった。
動きが緩慢になるスロウ、暗闇の状態異常を起こすダーク、体を地面に押しつけるグラヴィティ、痛みを与え続けるペイン、周囲の音を消し去るサイレントなど、エトウが覚えているデバフ効果を一つずつ試していく。
短時間でデバフ効果を切って、すぐに異なる魔法をかけていくといった方法を用いたが、三人にはかなりつらい体験となったようだ。
エトウがこれらのデバフ効果はすべて重ねがけができると言うと、三人は絶望したような表情となった。
「エトウの能力は極悪だってことが分かった」
コハクがそう言うと、アモーとソラノは何度もうなずいていた。
それから二日間は補助魔法のバフ効果に体を慣らしながら、パーティー内での連携技の練習に時間を費やした。
三日後、パーティーメンバーの武具と防具がそろうと、全員が装備を身に着けて町の外に出た。
森の中でゴブリンを倒しながら、何度も連携技の修正を行ってその日の探索を終えた。
「明日からギルドの依頼を受けようと思う」
その日の夜、エトウが宿の部屋でそう告げると、アモーは深くうなずき、コハクは胸の前で握りこぶしを作って「よしっ」と気合いを入れた。一見無表情を通しているソラノも、頬の色が少しだけ赤くなっているのが分かった。
明日は新しいパーティーメンバーによる冒険初日である。
最優先に考えるのはパーティーメンバーの安全、二番目が依頼の達成だとエトウは心に誓ったのだった。




