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7. 初めてのダンジョン行

 翌日の朝、エトウたちはポーターのミキオと合流して、ダンジョン行きの馬車に乗り込んだ。

 サキの町から一時間ほど馬車に揺られると、堤防の上を通る一本道を進むようになる。

 右手にはロア川の流れが見えた。水量はそれほど多くない。両岸には白い石が並ぶ川原が続いていた。


 馬車は堤防から川原へと下った場所で停まる。そこで乗客全員が下車した。


「エトウさん、こっちだ」


 エトウたちはミキオに案内されるまま、川原を堤防に沿って歩いていく。その前後には同じ方向を目指す冒険者たちの姿があった。


「ロア川が増水したときには、この辺りまで水の底に沈むんだ。その期間はダンジョン探索ができない。次に『龍神の迷宮』に来るときには、その情報を事前に調べておいた方がいい。無駄足を踏みたくなければな」

「どのくらいの周期でダンジョンに入れなくなるのですか?」

「一年に数回、その期間を合計しても一ヶ月は越えないな。だが、一週間ほど水が引かないこともある」

「それは厳しいですね。今度からはしっかり調べてから来ることにします」

「ああ。それがいいな」


 やがてエトウたちは川原の端にある小高い山にたどり着いた。ミキオはそのまま山に入っていく。道は踏み固められており、歩きにくいということはなかった。


「あと十分も歩けば、ダンジョンの入り口が見えてくる」


 ミキオの言葉どおり、小山の中腹まで登ってくると、縦横三メートルほどの洞穴が口を開けていた。

 洞窟の周囲はくずれないようにレンガで補強されている。

 山を登ってきた冒険者たちは次々にその中へと消えていった。


「あれが『龍神の迷宮』の入り口だ。さぁ、行くぞ!」


 ミキオが気合を入れる。

 エトウたちはお互いにうなずき合うと、足取りも軽く洞窟の中へ踏み込んだ。


「エトウさんたちだったら、一階層から四階層まではなんの問題もないと思う。念のため伝えておくと、一階層で気をつけるべきはホワイトクラブの群れだ。集団で獲物にまとわりついて食い尽くす。だが、それほど足が早い訳じゃない。巣に突っ込んだりしなければ脅威ではないだろう」

「ホワイトクラブはおいしい。狩りの時間だ」

「ソラノ、巣に突っ込んだりするなよ!」

 エトウは注意を与える。

「当たり前。心配しないで」

「エトウ、ホワイトクラブを捕らえるのに、これが使えると思う」


 アモーが背負袋から取り出したのは銀色に輝く網だった。それは魔力を流しやすい素材で作られた魔法網である。

 エンチャントを得意とするエトウならばどのようにも使えるだろうと、アモーの師匠であるタンゲが持たしてくれたのだ。


「この階層で、タンゲさんが欲しがっている素材はあるのか?」

「カラーカープの骨ぐらいだな」

「よし、使ってみるか」


 魔道具工房で弟子として働いているアモーは、急なダンジョン行きを認めてもらう条件として、ダンジョン素材を持ち帰る約束をしたのだ。


 魔法網を受けとったエトウは、川をめがけて網を広げるように放り投げた。一度ではうまくいかず、二度、三度と繰り返してやっと網がうまく広がってくれた。


「なかなか投げるのが難しいんだな。おっとっと、急に重くなった。うわっ、これは持ち上げられないぞ、アモー!」


 アモーは急いでエトウの後ろに回り込むと網を強く引いた。それでも網はまったく動かず、反対に二人は川の中に引きずり込まれそうになる。


「エトウ、雷魔法を流せ! しびれさせれば、魔物も動きを止めるはずだ!」

「よーし、行くぞ! エンチャント、サンダー!」


 エトウの両手から放たれた雷魔法は網を伝って川に流れていった。

 辺り一帯を雷の音と光が荒れ狂う。それらが収まったときには、何匹もの魚が川面に浮かんでいた。


「エトウ、網を引くぞ」

「おう。せーの、はい! せーの、はい!」


 コハクとソラノも網を引くのを手伝う。

 河原に引き上げられた網の中には、数十匹のホワイトクラブと噛みつき亀であるブラックタートル、大型魚の魔物であるオレンジカープが入っていた。


「大漁だぁ!」

 コハクがうれしそうに叫ぶ。

「ホワイトクラブは茹でるのがいい。エトウ、早く食べよう」

 ソラノの目はホワイトクラブに釘付けとなっている。

「こんな魔物の狩り方、見たことないぞ……」

 一部始終を見ていたミキオは目を見開いて驚いていた。


 エトウたちは、雷魔法でしびれたり死んだりしている魔物たちの剥ぎ取りを始めた。

 必要な素材はホワイトクラブの殻、オレンジカープの背骨と中骨、ブラックタートルの甲羅である。


 コハクとソラノは、殻や骨を取り除いたホワイトクラブとオレンジカープの身を使って、スープと煮物を作っていた。

 それとは別に、何匹かのホワイトクラブは殻のまま塩茹でにしている。


 しばらくすると辺り一帯においしそうなにおいが漂ってきた。

 アモーが結界の魔道具を設置したため、一階層にいるくらいの弱い魔物は近寄ってこない。


「高ランクの冒険者になると、いろいろと便利な魔道具を持っているんだな」

 ミキオは感心しきりである。

「アモー、もしかして、この魔法網が俺の最強装備なんじゃ……」

「いや……どうだろうな」

「あはは、剣よりも網が強いって、どんな冒険者なの?」

 コハクが遠慮なく笑う。

「エトウ、大丈夫! その網は正義。間違いない」

 ホワイトクラブを大量に確保できたソラノは満足気にうなずいた。

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