6. ポーターの登用
エトウたちは冒険者ギルドの酒場で料理をつまみながら時間をつぶしていた。
そろそろギルド職員に指定された時刻になるという頃に、二十代後半から三十代前半ぐらいの男性がエトウたちのテーブルの前で足を止める。
「あんたがエトウさんかい?」
「そうですけど、あなたは?」
「俺はミキオ。『龍神の迷宮』でポーターを十五年間やっている。ギルド職員にあんたらがポーターを探していると聞いた。間違いないかい?」
「ええ。間違いありません。どうぞ座ってください」
「ああ、失礼するぜ」
ミキオは今年で三十歳になる地元出身のポーターで、成人前からダンジョンに潜って荷物持ちを務めていたそうだ。
中肉中背で一見細身に見えるが、肩周りや太ももの筋肉は盛り上がっている。
エトウたちも一人ずつ自己紹介を行った。
エトウがエールを勧めると、ミキオは「悪いな」と言ってから店員に注文した。
今日も先程までダンジョンに潜っていたらしい。
大ジョッキのエールを一気に半分ほど飲み干すと、プハーと気持ちのいい声を出した。
「いい飲みっぷりですね。よかったら食べ物もつまんでください」
「おう、頂くよ」
コハクがテーブルの上にのった料理を手際よく小皿に盛ってミキオに渡した。
「ありがとよ、コハクさん」
ミキオは小皿の料理を少し食べて、次の一口でエールを飲み干した。
「店員さん、エールをもう一杯お願いします」
エトウが気をきかしてミキオのエールを注文する。
「悪いな、エトウさん。それでダンジョンに潜りたいのは、あんたたち四人なんだな?」
「そうです。全員が『龍神の迷宮』は初めて。アモー以外の俺たちは、ダンジョン探索自体が初めてです」
「なるほど。そりゃ、地元のポーターを雇うのはいい選択だな。エトウさんたち三人がB級冒険者で、コハクさんがC級という話だったが、それでダンジョンが初めてとは意外だな」
「そうですか? けっこうはっきり分かれますよね。地上の仕事をこなしていく冒険者とダンジョン専門と」
「それだけ地上の仕事が多い場所で活動していたってことだな。この辺りで高ランクの冒険者パーティーは、ダンジョン専門のところばかりだ」
「なるほど。この間まで俺たちは王都の近くで活動していました。地上の仕事には事欠かなかったですね」
ミキオは納得したようにうなずくと、エールをぐびりと飲んだ。一杯目よりはペースを落としている。初対面の者を相手に酔っ払うような真似はしないのだろう。
「俺の最高到達階層は二十階層。危険を最小限に抑えられるのは、通常の案内で十五階層まで、初心者の場合は十一階層までだな」
「十二階層には難所があるそうですね。レッドクラブとかいう大型のカニが出るとか」
「そうだ。正確には十二階層には全五種類のカニが出てくる。エトウさんが言ったレッドクラブは高さ四メートルを超える大カニで、階層の主のように君臨している。他にも魔法が得意なカニや群れで襲ってくるカニ、毒のあるカニもいる。甘く見て準備を怠った初心者は、この階層を越えられない」
ミキオは真剣な表情で語った。
階層を越えられないとは、そこで命を落とすか、大ケガなどをして冒険者を廃業するかという話なのだろう。
厳しい世界だが、ミキオはそういった冒険者をポーターとして見てきたのだ。
「俺たちは急いで攻略階層を増やす必要はありません。『龍神の迷宮』にはどんな特徴があるのかを、実際に体験したいというのが今回の目的です。どの階層まで潜るのかは、俺たちの戦い方を見て、ポーターであるミキオさんに判断してもらえればと思います」
「その言葉どおりにしてくれるなら、俺はエトウさんたちを安全に案内することができる。だが、約束を違えて無理に進もうとするなら、俺はその場で帰らせてもらうぜ。その日の報酬は前金でもらう。ダンジョン内で野営する場合には、その日にち分の報酬を前払いだ。途中で別れることになっても、報酬の返却はしない。これはギルド職員の前で約束してもらう」
「分かりました。それでお願いします」
「日数はどうする?」
「ダンジョンに潜れるのは、明日から六日間だけです。その期間のポーターをお願いできますか?」
「明日から六日間だな。分かった。早速、ギルド職員に来てもらって、契約書を作ってもらおう」
呼びつけられたギルド職員も慣れたもので、すでに作成されている契約書をエトウたちの前に差し出した。
契約書の内容を確認してサインする。ミキオもサインを終えて、これで契約は完了となった。
「明日からよろしく頼むぜ」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
エトウたちとミキオはそれぞれの飲み物で乾杯して、明日からのダンジョン探索に思いを馳せたのであった。




