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3. 剣士と弓士

 タマラと一緒に応接室を出たエトウは、邸宅の裏手にある瀟洒な別館までの渡り廊下を歩いていた。

 タマラによると、本宅にも奴隷はいるのだが、貴族や富裕層向けの奴隷ばかりで、冒険者として戦える者はいないということだった。


 エトウが通された部屋は小さめのダンスホールのような造りになっており、板張りの床の中央に真っ白な絨毯が敷かれてソファセットが置いてあった。

 正面には舞台が設けられており、そこに奴隷を並ばせて質疑応答が行えるそうだ。

 ここでも紅茶と茶菓子を楽しんでいると、タマラが数枚の資料を手にもどってきた。それらはエトウの要望に合うような奴隷の資料だった。


 資料を読み込み、タマラの話も聞いて、エトウは候補となる奴隷を五人にまで絞り込んだ。すぐにその五人を舞台に上げるとタマラは部屋を出て行く。

 五人の内訳は前衛職の剣士三人、後衛職の弓士が二人である。

 奴隷たちの値段を見ると、無理をすれば三人までは購入できそうだった。


 最初に舞台に出てきたのはオーガ族の男性とハーフオーガの女の子だった。この二人は親子だという。どちらも剣士でオーガ族の方は斧や盾も使えるとのことだった。

 もう一人の剣士は人間族の男性で、元Cランクの冒険者。この三人は借金奴隷となっており、借金の返済のために自らの身を奴隷商館に売ったと資料に記されていた。


 弓士は人間族の男性とエルフ族の女性だった。

 エルフは弓術や風魔法にすぐれた能力を発揮することが知られており、タマラの提示した値段では安すぎると思ったが、資料を見ると五人中唯一の犯罪奴隷だった。罪状は殺人。

 人間族の弓士は借金奴隷で、元Dランクの冒険者だった。


 エトウは一人一人奴隷となった経緯について尋ねていった。

 オーガ族とハーフオーガの親子は、人間族の母親が病気となり、高額な治療薬のために借金を重ねたという。

 母親は治療薬のおかげで延命することはできたが、根治には至らず命を落としてしまう。

 その後もオーガ族の父親はB級冒険者として借金の返済を続けていたが、魔物の襲撃で深手を負い、親子ともども身売りすることになったそうだ。


「娘さんも奴隷にした理由をお聞きしていいですか?」

「村を疫病が襲ってな。近い親類などは皆死んでしまった。娘を一人残すならば、一緒に買ってもらうのを条件にして、手元に置いた方がいいと考えた」

「なるほど。アモーさんのケガは完治しているのですね?」

「ああ。完治している。戦うのになんの問題もない」

「よく分かりました」


 ハーフオーガの娘はまだ十二歳と若いが、幼い頃から父親に剣の修行を受けており、その腕前は冒険者ランクD相当だということだった。

 冒険者ランクDならば、ゴブリンやオーク程度ならば単独で討伐できる腕がある。十二歳にしては驚くべき才能だろう。


 人間族の剣士も戦闘中のケガによって借金返済が滞り、身売りすることになったと話した。

 その借金はもともと友人に頼まれて貸したお金だったという。その友人は雲隠れしてしまい、自分で借金を返していくしかなかったようだ。

 裏切られた上にケガをするとは不運な男だが、同情で奴隷を選ぶわけにはいかない。

 エトウは能力と人格をしっかりと見極めようと思い直した。


 人間族の弓士は大手クランに所属する腕のよい弓士だったという。ギャンブルにはまり、借金で首が回らなくなって身売りすることになったらしい。

 ギャンブルは麻薬のようなものだと聞いたことがあるが、エトウにはそういった趣味がないため、ギャンブルで借金をする人間の気持ちは理解できなかった。


 最後となったエルフ族の弓士は、自分たちの森に侵入してエルフの子供をさらおうとした奴隷商人を殺したのだという。

 無事に子供を救い出して里に帰還したが、数日後、人間族の男が里を訪ねてきた。

 その男は自分がエルフ領に隣接する貴族家の使いだと言った。エルフによる人族の殺人について捜査していると語り、事件のあらましを聞き取って帰っていった。


 後日、その男が貴族からの書状をもってあらわれ、殺人の罪でそのエルフを逮捕する意向だと里長に伝えた。

 彼女が不幸だったのは、事件の目撃者がさらわれそうになったエルフの子供と逃げ帰った人間族しかいなかったこと、そして殺された奴隷商人が貴族御用達となっている有力商人の息子だったことだった。


 人間族の裁判で有罪判決が出ており、エルフの里が彼女の身柄を引き渡さないのであれば、王国が軍勢を出すことになると脅してきた。

 彼女は自分の身一つで里が守れるならばと、自ら捕縛されたのだという。


 貴族の元に連れて行かれた彼女は、両手両足を鎖でつながれ、無理やり蹂躙されそうになった。

 いまだ奴隷契約を結んでいなかった彼女は貴族の頬に食らいつくと、そのまま男の頬を肉ごとかみちぎったという。

 悲鳴をあげながら部屋から逃げ出す貴族を大声で笑ってやったと語る彼女の目は、恨みと憎しみで暗く染まっていた。


「あなたは裁判には出席しなかったのですか?」

「ああ、出席していない」

「それは強引すぎませんか? タマラさん、こんなふうに奴隷にされてしまうのは、よくあることなんですか?」

「いえ、通常ではありえません。しかし裁判所の記録は正式なものでした。私どもの方でも問い合わせて調べましたので、その点は確かです」

「うーん、どう判断したらいいでしょうね」

「彼女は極めて有能な弓士です。その腕をこのまま腐らせてしまうのは、とても惜しいように思います」


 その後、壇上の奴隷たちは奥に下げられた。

 エトウは彼らとのやりとりを思い出しながら、机の上に広げた資料をじっくり見ていく。


「タマラさん、誰にするか決めました」


 自分のパーティーに誰を迎えるのかを決めたエトウはタマラに告げたのだった。

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