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1. 装備の新調と奴隷商館

 エトウは冒険者ギルドの食堂でこれからのことを考えていた。

 冒険者として名を上げるのはもちろんだが、補助魔法の価値についても証明していきたかった。


 エトウの補助魔法は勇者ロナウドに役に立たないと決めつけられ、一年という長期間、パーティーでの使用を禁じられていた。その悔しさを忘れることはできない。

 補助魔法の能力を高めていくのは、冒険者としての強さを獲得することに加えて、ロナウドに対するエトウの意地でもあったのだ。


 単独でワイバーンを倒せるまでになったエトウだが、まだまだ冒険者として危ないところもあった。

 例えば、敵が多数で襲いかかってきた場合、ソロで活動しているエトウの手に余ることもありそうだ。オーガなどの大型の魔物が相手だと今の装備では心もとない。


「よし、一つ一つ解決していこう。おっちゃん、ごちそうさま」

「おう、またな!」


 エトウはギルドを出ると、武具店や防具店が集まる職人街に足を向けた。


 勇者パーティーで活動していた約一年間、エトウの装備品は新調も整備もしてもらえなかった。

 剣は良質の鋼を腕のよい鍛冶士が打った一点物、防具はワイバーンの革を使った高級品を国から支給されていたが、この一年間はエトウが自分で整備を行ってだましだまし使っていたのだ。


 装備品は返却の必要がないとの話だったので、エトウがこのまま使うことに問題はない。

 だが、防具の留め具はガタがきており、剣先も欠けていて叩くとおかしな音が響く箇所がある。おそらくはひび割れがあるのだろう。


 これから先、冒険者を続けていくには、武具と防具をきちんと整えることが急務だった。

 貴族受けのよい見栄えばかりの剣など必要ない。無骨でも丈夫で自分の命を守ってくれる剣と、戦闘スタイルに合った防具一式をエトウは求めていた。


 店舗を見て回ってエトウが最終的に決めたのは、ドワーフのベテラン鍛冶士が店主をしているガルム武具店と、ドワーフとハーフエルフの夫婦が経営者のシルフィード防具店だった。

 どちらも大型店ではないが冒険者の評判は上々で、年若いエトウの要望にもきちんと耳を傾けてくれた。


「ガルムさん、ミスリルソードの値段、なんとかならないの? いたいけな冒険者から、有り金を全部奪っていくつもり? 悪徳なのかなー」

 エトウは芝居っ気を出して訊いてみた。

「なんともならんな! ワイバーンを単独撃破した冒険者が、なにを甘ったれたこと言っとる! 金がないなら、町の外で稼いでこい!」

 ガルムはまったく取り合わない。

「割り引きなし?」

「……」

「おまけは?」

「ええい、うるさい! 剥ぎ取り用の短刀を安くしといてやる。稼いだら、また買いに来いよ!」

「そりゃ、もう。ガルムさん、ありがとうございます!」


 エトウはミスリルの片手剣と剥ぎ取りのための短刀、投擲用のナイフをガルム武具店で購入した。

 そしてシルフィード防具店では、手持ちのワイバーン素材を使った防具一式と防具の下に着る丈夫な冒険者用戦闘服を注文する。


 防具一式はワイバーン素材を提供したこともあって比較的安く済んだが、ミスリルの片手剣だけで貯金の三分の一が消えてしまった。

 さすが高級素材のミスリルである。店主をなんとか値引き交渉に引っ張り出そうとしたが無理だった。


 魔法伝導率がよいミスリルソードは、武器への魔法付与を得意とするエトウにとっては大幅な戦力の底上げにつながる。鋼の剣よりもミスリルの剣にエンチャントする方が、魔法剣の攻撃力が上がり、魔力の節約にもなるのだ。


 エトウは高額な買い物をした興奮と、それらの武具・防具を装備する楽しみとで高揚した気持ちになっていた。


 次に向かうのは奴隷商館である。装備をそろえた後は、奴隷を購入してパーティーに加えたいと考えていた。


 パーティーメンバーがいてこそ、補助魔法を得意とするエトウの本領が発揮できる。バフ効果でメンバーの実力をかさ上げすれば、想定以上の危険な魔物があらわれたときでも対処可能だろう。

 それに護衛依頼などは、一人よりもパーティーで請け負うものが大半だった。


 勇者パーティーで散々な目にあったエトウは、他の冒険者とパーティーを組むことに抵抗がある。

 奴隷契約で上下の立場を明確にできれば、身の安全を確保しながら、メンバー同士のわずらわしい摩擦も抑えることができるだろう。


「それでも、どういう関係が築けるかは相手次第なんだよな」

 奴隷商館までの道のりを歩きながら、頭の中でこれからのことを考えていたエトウはつぶやいた。


 冒険者の中には、奴隷をパーティーメンバーにして活動している者もいる。だが、彼らの多くは奴隷を使い捨てのように扱っていることがほとんどだ。


 勇者たちからひどい扱いを受けたエトウは、その光景を見ているのが苦痛だった。奴隷の姿に数ヶ月前の自分を重ねてしまうのだ。


「まずは実際に会って、話をしてみるところからだな」


 エトウが向かっている奴隷商館は、ギルドマスターに勧められた店である。冒険者の動向だけでなく、素材の売買で王都に情報網を築いているギルドならば、健全な店を教えてくれるだろうと考えたからだ。

 それにギルドはエトウの懐事情についても承知していた。あまりに身分違いの商館を紹介されることはないだろう。


 ところが、目の前の奴隷商館は、貴族の邸宅そのものの外観だった。入り口には鉄の大きな門が備え付けられ、その両側には槍を持った屈強な警備兵が立っている。

 エトウは、警備兵の一人にギルドマスターからの紹介状を恐る恐る手渡した。


 しばらくそこで待っていると、執事服をきっちりと身に着けた案内人があらわれて、エトウに深々と頭を下げた。

 その案内人に導かれるまま、エトウは敷地内に足を踏み入れる。美しく整えられた庭園を過ぎると、前方にレンガ造りの大邸宅が見えてきた。

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