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9. 周囲の変化

 エトウがパーティーの役に立ってないと最初に言い始めたのは魔聖ミレイだった。


「エトウさんの補助魔法にはそれほどの効果は見込めませんね。本当に勇者パーティーに必要な人材なのかどうかを、もう一度考えてみるのはどうでしょうか?」

「私の補助魔法はミレイ様のような威力はありません。しかし、作戦に参加した騎士や魔道士は、その効果を実感してくれています。それに魔法効果は上がっているので、いずれは皆さんのお役にも立てるかと思います」

「いつまで私たちは待てばよろしいの? 魔物討伐の旅に出るのはもうすぐでしてよ。旅の間も待たなければならないようなら、即戦力となる他の騎士や魔道士をパーティーに加えた方が効率的ではないかしら?」

「……」

「ミレイさん、エトウくんもがんばっていることですし、我々は女神様に選ばれた同志です。もう少し長い目で見ることはできませんか?」

 ロナウドはミレイをいさめた。

「ロナウド様がそうおっしゃるのでしたら……」

 ミレイは厳しい目つきでエトウを見つめたまま、ロナウドの言葉に従った。


 エトウにはミレイの態度が変化したことに心当たりがあった。

 彼女の目標は魔道士のトップである魔法師団の団長となることだ。その現団長であるピュークが、エトウの補助魔法を高く評価していると聞いたときから、ミレイはエトウをライバル視しているようだった。


 エトウが上級魔法を駆使してパーティーに貢献していたならば、ミレイもそこまで露骨な態度は見せなかったかもしれない。

 まだ魔物討伐の経験の浅い勇者パーティーのメンバーには、補助魔法の有効性を理解することができなかったのだ。


 その結果、魔物討伐の旅に出て二ヶ月もたたないうちに、エトウの補助魔法は禁止されてしまう。


 ミレイがエトウをネチネチと責めるのは日常的になり、勇者もそれを止めようとはしなかった。

 ロナウドが重視するのは常に個人の強さである。補助魔法による仲間の強化などには興味がない様子だった。

 勇者パーティーには護衛の騎士や魔道士、王国や教会への連絡係、雑用を請け負う者たちなど総勢三十名ほどが帯同していたが、彼らもロナウドやミレイにならうようにエトウを軽視するようになる。


 本来であればエトウが宿屋の部屋に泊まれず、食事も出されないといったことは起こらないはずだった。

 報酬に関しても王国と教会からパーティーメンバー一人一人に支払われている。エトウの報酬がまったく支払われないという状況は異常だったのだ。


 エトウは帯同している者たちに自分の報酬を渡してほしいと何度も訴えた。食費すらも与えられていない状況で、この先旅を続けられないと王城や教会への連絡係に伝えたが、彼らは報告の後に対処すると言うばかりだった。


 それでも現状を変えるべくエトウは訴えを続けていたが、報酬を管理しているはずの連絡係の言葉がきっかけとなって、それ以上彼らに期待するのは止めた。


「食費がないならば、ご自分で魔物を狩ってお金に換えたらよいのでは? エトウ様はパーティーでの戦闘に参加されておられないようなので、余力があるかと思われますが」


 王城との連絡係を務めている女性官僚は、見下したような視線をエトウに送りながらそう言い放ったのだ。


 周囲の者たちはその女性官僚のあまりの発言に驚いたようだが、次第に同意の声が上がり始めた。


「ああ、それはよい考えですな」

 女性の上役にあたる男性官僚が最初に同意を示した。

「ええ、ええ、我々としましても必要性を感じられない要望を中央に上げることはできないのですよ。エトウ様自らが問題を解消してくださるならば、これ以上のことはございません」

 教会の連絡係もすぐにその後に続いた。


 その様子を見ていた騎士や魔道士はなにも言わず、エトウに厳しい視線を向けている。

 これはだめだとエトウは思った。この人たちが自分の要望を聞き入れることはないと見切りをつけたのだ。


 それ以降、エトウが自分の窮状を訴えることはなくなった。

 ロナウドに命じられるままに仕事をこなし、他のパーティーメンバーが宿で休んでいる間に、町の外で魔物の討伐や薬草の採取依頼をこなして食費などに充てた。


 ラナはなぜエトウへの対応が変わったのかをしつこく訊いてきたが、エトウは自分が周囲に軽んじられているなどと話すことができず、その度にごまかすようなことを言っていた。

 次第にラナが尋ねてくることもなくなり、エトウはほっとしたのだった。

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