7. 勇者誕生の知らせ
その日、村人全員が村の中央にある集会所に集められた。
村長は両手で杖に体重をかけるようにして、曲がった腰をゆっくりと伸ばすと声を張り上げる。
「皆の者、こちらは王都からお越しになったザール牧師様だ。お話があるとのことだから、よくお聞きするように」
村人たちは王都からの使者と聞いて、好奇心を刺激された者と、面倒ごとを厭う気持ちの者との半分に別れたようだった。
濃い緑色の衣を身に着けたザール牧師が村人に向かって一礼する。まだ二十代半ばほどの年齢だろう。細面の真面目そうな青年だった。
「ただいまご紹介にあずかりましたザールと申します。今回は皆様に、教皇様からのお言葉を伝えるためにやって来ました」
村人たちはざわざわと騒ぎ始めた。
「落ち着いてください。皆様にお願いするのは一つだけです。皆様のお子さんが十五歳になったときには、必ずアシスの教会にて職業判定を受けさせてください」
村人たちの騒ぎが一瞬だけピタリと止まり、先程よりは抑えたコソコソ話が始められる。
町場であれば満十五歳の少年少女が必ず受ける職業判定であるが、辺境の小村では子供をわざわざ町に行かせるのを嫌い、職業判定を受けさせない親も少なくない。
村で農業や狩りをしながら一生を送る村人に、特に優れた職業など必要ないと考えられているのもそうなった原因だろう。
「この度、女神様より神託がおりて、勇者様が選ばれました」
ザールがそう言うと、再び村人たちの声は大きくなった。
「エトウ、勇者様だって! すごい! 本当にいるんだ」
ラナの顔は興奮で上気していた。
「何百年も前に闇の魔人を討伐したあの勇者様なの?」
「そうよ! 腐り神やゴーレムキングも倒したんだから!」
「でも、それってお話の中のことじゃなかったの? 本当に勇者様が倒したのかなぁ」
「当たり前じゃない! だから牧師様がわざわざ村にまで来たのよ」
物語の中にだけ登場していた勇者が実在すると聞いて、ラナは目を輝かせていた。
彼女は小さな頃から勇者の物語が大好きだった。女の子にしてはめずらしい趣味だったが、同じく冒険物語に憧れていたエトウと話が合ったのだ。
「皆様、話は終わっていません。ここからが大事なことなんです。勇者様は一緒に戦う者たちを必要としています。女神様からの神託では、剣士の最上職である剣聖と、魔法に優れた賢者が辺境付近で生まれると伝えられました」
ここにきて村人たちは大声で話し始めた。自分たちの中から英雄が生まれるかもしれないのだ。
「エトウ、剣聖だって! 格好いい!」
「ラナ、剣聖は男のはずだろ。物語でもそうだったじゃないか」
「女が剣聖でもいいじゃないの。エトウは頭がいいから賢者ね!」
「俺だって剣聖がいいよ! 魔法より剣で倒す方が格好いいだろ」
「それなら私だって――」
興奮を抑えることができない二人の会話はいつまでも続いた。
エトウは勇者が実在するという話を聞いただけで、自分たちが生きているこの世界が新しく生まれ変わったような気持ちになったのだ。
「それなので子供たちが十五歳になったら、職業判定を必ず受けさせてください! この村から一番近いのは、アシスの町の教会です! よろしくお願いします!」
ザール牧師が大声を張り上げていたが、村人の騒ぎは収拾つかないほど大きなものになっていた。




