僕の告白
この物語は、橋本が橋本に影響力を与えるために、橋本が魂を削って橋本のためだけに物語を紡ぐ小説家を目指す、橋本利一の『インフルエンサーノベリスト』の提供でお送りします。
twitter:@hassiy2
ブログ:『インフルエンサーノベリスト』http://www.hassiy2.com/
街角さんは一気に捲し立てると、満足そうに笑った。
整理すると、街角さんは涼宮ハルヒが大好きで、ハルヒに憧れを持っていて、ハルヒの真似をする痛い子なのだということが分かった。
僕の黒歴史を紐解くと、小学校時代にはハリーポッターごっこなるものをやっていたので、人のことは言えないが、
そういう病気、すなわち中二病ってやつは中学校のときに治ってしまうのが普通なのではないかと思っていたので、少しというか、大分面を食らった。
街角さんは机の脇にかかっている通学鞄に手を突っ込むと、文庫本を取り出した。
見ると、全てが涼宮ハルヒのシリーズで、憂鬱から最新刊である分裂までしっかりと揃っている。
文庫本はかなり使い込まれた古本のようにボロボロで、ページの端が折れたり破れたり、汚れが付いているものもあった。
「見て、これ、もう何度読んだか分からないくらい読み返しているの。それでね、それでね。憂鬱を見てちょうだい」
街角さんに促されるまま憂鬱に目を落とすと、表紙を捲った見返しと呼ばれる箇所になんと、谷川流先生のサインがあった。
「サイン貰ったのよ。東京まで行って、秋葉原でサインしてもらったの。そのときはハルヒのコスプレをしていってね。谷川先生がよく似合ってますねって褒めてくれたのよ。握手もして貰って、この大きくて温かい手からハルヒたちの活躍が生まれてくるんだって思うと、もう感激で感激で、しばらく手が洗えなかったくらいなのよ」
「いいな。羨ましい。谷川先生のサイン、僕も欲しい」
「サイン会はほとんど東京だからね。地方在住者だと、辛いわよね。このサインもらいに行くのだって、お年玉をやりくりしてどうにか行ったんだから」
街角さんは胸を張って、ふふんと自慢げに笑う。
しかし、数瞬後には肩をだらんと落とし、眉を下げて悲しそうな表情を作る。
「でもね。最近、新刊出ないじゃない。毎年出ていたのに、もう四年もでていないの。ネットでは谷川先生の病気説や死亡説まで流れてるわ。新刊が出れば、アニメだって三期や四期まで作られうる作品だと思うのに。みんなきっと待っているはずなのに、どうして出ないのかしら」
「ヒットしすぎて、周りの期待に応えるのが辛くなってしまったのかもしれないよ。小説は書くのが難しいんだ。良い文章を書こう。大ヒットするような名作を書こうとすればするほど、筆は止まる。その気持ち、よく分かるよ」
いつの間にか、街角さんときちんと会話ができるようになっていた。街角さんのハルヒに対する情熱に心が動かされたと行っても過言ではない。
そのせいで、僕は重大な秘密を漏らしていた。
「どうして谷川先生の気持ちが分かるの?」
街角さんは机の上に置いてある文庫本を片付け、代わりに通学鞄からピンクの花柄のナプキンに包まれた弁当箱を取り出した。
包みを解き、蓋を開けると、美味そうな昼食が顔を覗かせる。
女の子らしい一段の弁当で、右側にはご飯。
左側にはおかずが詰められている。
おかずにはアスパラガスのベーコン巻きに、ソーセージ、ミニトマトに、小さなハンバーグがあり、ご飯には錦糸卵が丁寧に塗されていた。
「どうして……どうしてって……それは……」
誰にも言ったことがない秘密だった。
親にも知られたことのない秘密。
街角さんがハルヒに憧れたように、僕も憧れたのだ。
「僕、ライトノベル作家を目指しているんだ。は、初めて読んだラノベが涼宮ハルヒで、街角さんと同じように感動して、僕は谷川流先生みたいなライトノベル作家になりたいって思ったんだ。文庫本の後ろに新人賞募集の広告があるだろう? それに、応募したいなって」
街角さんの目が見開かれる。そして、綻ぶ花のようにぱあっと笑みが広がった。
この物語は、橋本が橋本に影響力を与えるために、橋本が魂を削って橋本のためだけに物語を紡ぐ小説家を目指す、橋本利一の『インフルエンサーノベリスト』の提供でお送りします。
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