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街角昼音の鎮魂歌  作者: 橋本利一
4/10

街角昼音は涼宮ハルヒが大好き

 この物語は、橋本が橋本に影響力を与えるために、橋本が魂を削って橋本のためだけに物語を紡ぐ小説家を目指す、橋本利一の『インフルエンサーノベリスト』の提供でお送りします。


twitter:@hassiy2

ブログ:『インフルエンサーノベリスト』http://www.hassiy2.com/

「え」

 

 シンと静まりかえった教室の中で、声を出したのは僕だけだった。


 恥ずかしくなって、無理矢理口をつぐみ、下を向いた。


 教室の中はざわつかない。


 おいおい嘘だろう。


 あの涼宮ハルヒの自己紹介をまるごとパクってやるなんて、全く、どうかしている。


 涼宮ハルヒは当然創作上のキャラクターだ。


 現実に存在するわけがない。


 まさか、憧れてやったのか? 


 頭の中で様々な憶測が立つが、混乱は収まらない。


「はい、街角さん。異世界人いるといいですね。次は……」


 佐藤先生は軽く触れただけで、涼宮ハルヒの言葉は出さずに、次へ進める。


 僕はそっと顔を上げて、周りを見やった。


 僕ほどの混乱はないにしても、今の自己紹介はなかなか衝撃的だったらしく、数人の生徒が「あれ涼宮ハルヒの自己紹介じゃね」と呟いている。


 そりゃそうだ。累計発行部数一六八〇万部の大ヒットベストセラーなのである。


 ライトノベルを主に読む、オタクと呼ばれる人種のカテゴリに囚われず、幅広い年代に読まれている名著だ。


 しかし、さざ波のように広がっていた動揺は自分の順番が迫ってくるに従って、収まっていく。


 どんな自己紹介をすれば良いのか、同級生の記憶に残らないか。


 そればかり考えて、僕の順番が回ってくる。


「はい、次の人。古河翼くん」


「はい。富岡第一中出身の古河翼です。あの……よろしくお願いします」


 薬にも毒にもならないような自己紹介を終えて、僕はそっと席に着いた。


 ひとまず、どうにかやり過ごした。


 自己紹介なんていうのは最初の頃は授業の度に何度か繰り返しあるので、そのたびに緊張しなきゃならないのかと思うと、うんざりする。

 

 ふと、視線を感じた。


 そちらを見やると、あの涼宮ハルヒの自己紹介をやった……街角さんがこちらをじっと見ている。


 嘘だろう。


 なんで僕の方を見ているんだよ。


 僕は慌てて目をそらすと、そちらを再び見ないように努めた。


 視線が合ってしまったら、またも涼宮ハルヒ的な何かをしてくるかもしれない。


 宇宙人呼ばわりされるとか……。

 

 自己紹介が終わり、ホームルームを佐藤先生が締める。


 一時間目は数学の授業だ。教科書を開き、担当する先生が来るのを待つ。


 その間にも、街角さんのジリジリとした視線をヒシヒシと感じていた。


 昼食の時間になった。


 高校では中学校のように班を作って、机を寄せ合って、給食を食べるなんていうお友だちづくりの強制イベントは発生しない。


 僕はお母さんが作ってくれた弁当を通学鞄から取り出し、包みを開く。

 

 ギギイと机の脚が床を擦る耳障りな音が聞こえた。


 視線を上げると自分の机の前に、机が一つぴったりと寄せられている。


 座っているのは街角昼音さんだった。


「ちょっとあんた」


 声をかけられる。


 ちょっと、あんたって、僕のことか? 


 しかし、普通机を寄せるときは、一緒に食べませんかと声をかけるものではないのか。


 僕が目を白黒させていると、街角さんはぐいっと顔を近づけてきた。


 はっきりととした目鼻立ちで、色白。


 黒髪は長く、赤いゴム紐で後ろ手に結っている。


 女子の制服はセーラーで、紺色の生地は新しく、大きめの襟には白い線が三本走っている。


 胸元には赤い大きなリボンが左右対称に綺麗な形で結われている。


 とても涼宮ハルヒには似つかないが、顔立ちは女子の中でも結構美人な方だと言えた。


「は、はい……」


 街角さんに凄まれて、僕は気の抜けるような返事を返した。


「あんた。朝の自己紹介のときに、変な声を出したでしょう?」


 思わず上げてしまった驚きの声は、しっかりと街角さんの耳に残っていたらしい。


 入学早々に目立ち、ちょっと頭のおかしな女の子に目を付けられてしまった。


「涼宮ハルヒ、知っているの?」


 僕はまだ何も返事をしていないのに、街角さんの質問は続く。どうやら、少しせっかちな人なようだ。


「うん……」


「そうなのね、うんうん。涼宮ハルヒシリーズは本当良いわよね。ハルヒは活動的でとっても可愛いし、語り部のキョンも良い味だしてるし、一巻は宇宙人、未来人、異世界人、超能力者なんているわけないじゃん! って思いながら読んでたら、宇宙人と未来人と超能力者はいるじゃんってなって、長門は素朴で、小泉はクールで、みくるは可愛くて、キャラ立ちもしっかりしているから、読んでてぜんぜん飽きないんだよね。流石は、角川スニーカーの大賞を取るだけあるなあって感心したの。ねえねえ、あんたは異世界人はいると思う? 私はいると思う。絶対、隠し球として後で控えていて、ハルヒの前に出てきそうだよね。わたしの予想ではね、キョンの妹が怪しいのよ。あの子異世界人の可能性大よ。あんたさ、好きなキャラは? 私はハルヒ、高校に入ったら、絶対、絶対、絶対、ハルヒみたいになるんだって決めてたの。今日の自己紹介どうだった? もう感激だったでしょう。家で、ハルヒみたいにびしって言えるようにもの凄く練習したんだから。もう成功して良かった。ここまでやったんだから、本当に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、私のところへ来ると思うの。だって、ハルヒと同じことをやっているのよ。もしも、私がこの世界を構成する概念だったら、放ってはおかないでしょう。だって、危険じゃない。だから、今日は話しかけてこなくても、ゴールデンウィークくらいまでには私に接触してくるはずよ。それまでには、キョン的なポジションの人を捕まえて置かなくちゃって思うの。暴走する私をしっかりとコントロールしてくれる人がいいわ。どこにいるのかしら」

 この物語は、橋本が橋本に影響力を与えるために、橋本が魂を削って橋本のためだけに物語を紡ぐ小説家を目指す、橋本利一の『インフルエンサーノベリスト』の提供でお送りします。


twitter:@hassiy2

ブログ:『インフルエンサーノベリスト』http://www.hassiy2.com/

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