街角昼音の登場!
この物語は、橋本が橋本に影響力を与えるために、橋本が魂を削って橋本のためだけに物語を紡ぐ小説家を目指す、橋本利一の『インフルエンサーノベリスト』の提供でお送りします。
twitter:@hassiy2
ブログ:『インフルエンサーノベリスト』http://www.hassiy2.com/
高校デビューというものに憧れを持っていたのに、僕はなんの準備もせずに、高校の制服に袖を通した。
鏡を見やると、黒い詰め襟の学生服に身を包んだ太っちょで冴えない少年がこちらを覗いている。
変わりたいと心の中では思っているのに、それを実行しようとする勇気は無かった。
なので、高校も中学と同じようなつまらない学校生活が待っているのだろうなと思うと、少しだけ憂鬱……な気分になる。
僕は黒革の学生鞄を片手に家を出て、高校へ向かった。
入学式は昨日済み、今日が初めての授業になる。
高校は海の側にある。
自宅からは歩いて十分ほど。
テトラポッドがたくさん並ぶ堤防のそばの路を行く。
今日の太平洋は少し荒れていた。
さざ波が沖の方で白く泡を立てている。
潮の匂いは濃い。
こういう日は海の水分が蒸発して雲になりやすく、雨が降りやすいと言われている。
帰りに雨に降られると敵わないので、折りたたみ傘を鞄の中に入れている。
高校は小高い山を背にしていて、コンクリート造りの四階建てだった。
建てられてから日は浅く、校舎は入学式で見たときは結構綺麗だった。
校門の前には先生が立っていた。
赤いジャージを着て、髪は刈り上げていて、いかにも体育教官で生活指導をやっていますといった風貌だった。
先生は登校してくる生徒を抜け目無く監視していて、女の子のスカートの丈や男の子の眉毛を呼び止めては注意していた。
僕は当然のことながら、注意されなかった。
先生の目をどうやってすり抜けるか。
中学時代はそればかり考えていたので、目立つようなことは一切してこなかったからだ。
下駄箱で靴を履き替えて、入り口に張り出された、クラス表に目をやる。
知っている名前はちらほらあるが、向こうはこちらを知らないだろう。
それでいい。
目立たない方が楽だ。
僕は一年一組だった。
教室は四階にある。
一年生が最上階で、三年生が下の階だ。
当然のことながら、階段で昇る。
普段、運動をあまりしないので、少し昇っただけでも息が切れた。
立ち止まり、鞄を揺すって肩掛けの位置を調整し、一息吐いてから、教室へ。
教室内はすでに大半の生徒が集まっていた。
席は決まっているらしく、五十音順に出席番号が割り振られている。
僕の席は一番後ろだった。
目立たないようにするにはうってつけの席である。
教室内では既にグループがいくつかできあがっていて、談笑をしている。
ほとんどが同じ中学校のグループで固まっているようだった。
孤立しないようにとりあえず集団を作って、他校から来た生徒の様子を窺っている感じだった。
もちろん僕はそれらに見向きもせずに、まっすぐ自分の机へと向かう。
チャイムが鳴り、生徒たちはグループを解散して、席に着く。
ガヤガヤとした騒ぎ声が続いていたが、担任の先生がやって来ると静かになった。
担任は女の先生だった。
髪は黒くて長く、白いカーディガンを羽織っていて、ピンクのロングスカートを穿いた先生で、年の頃は三十代前半くらいに見えた。
「はい、みなさんおはようございます。そして、入学おめでとう。今日から皆さんは高校生です。義務教育の中学生とは違って、皆さん自分の意思で勉強をしに来ているわけですから、自覚を持って、高校生活を送って下さい」
担任はそう言うと、くるりと背を向けて、黒板にチョークで文字を書き始めた。
佐藤つくし。
それが先生の名前だった。
「わたしは国語を担当します。今日は授業はありませんが、授業までに教科書を読んでおいてください。それでは……出席をとります。名前を呼んだら、大きく返事をして自己紹介をしてください」
佐藤先生はそう言うと、出席番号一番の人から名前を呼び始めた。
困った。
自己紹介だなんて考えていない。
黙りこくるのも変に目立つし、なにかしら無難な自己紹介をする必要がある。
しかし、幸いなことに出席番号の早い者が前例を作っていく。
出身中学と名前、それからよろしくお願いします。
程度を言っておけばいいらしい。
先生もなにか趣味を言えだなんて、無茶ぶりはせずに、淡々と自己紹介は進んで行く。
身構えるまでもなかった。
「はい、次の人。街角昼音さん」
「はい。富岡第二中出身、街角昼音。ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、私のところに来なさい。以上」
この物語は、橋本が橋本に影響力を与えるために、橋本が魂を削って橋本のためだけに物語を紡ぐ小説家を目指す、橋本利一の『インフルエンサーノベリスト』の提供でお送りしました。
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