文芸部に入部します
この物語は、橋本が橋本に影響力を与えるために、橋本が魂を削って橋本のためだけに物語を紡ぐ小説家を目指す、橋本利一の『インフルエンサーノベリスト』の提供でお送りします。
twitter:@hassiy2
ブログ:『インフルエンサーノベリスト』http://www.hassiy2.com/
職員室に行くと、佐藤先生は自席に座り、パソコンに向かっていた。
キーボードを叩いて、何やら書類を作成しているようである。
昼音は「失礼します」と大きな声ではっきりと言うと、臆せず職員室に入って行く。
僕は職員室が苦手だった。
書類が大量に積み上げられ、珈琲の匂いが漂う空気は独特で、立ち入るのが億劫になる。
けれども、昼音がずんずん先に行ってしまうので、僕も後を追いかける。
「佐藤先生お時間よろしいですか?」
あんな突拍子のない挨拶をした人とは思えないほど、昼音は丁寧に先生に話しかける。
「こんにちは、街角さん。どうしたのかしら」
「入部届を出しに来ました」
「へえ、もう部活が決まったのね。どれどれ……へえ、文芸部。街角さんって文章書くのが好きなのかしら?」
「いえ、作文は苦手です。ですが、部員が少ないので、自分たちが気に入った人材を集めて何か面白そう
なことをやろうと思います」
文芸部の入部なのに、これでは部活を私物化しようとする宣言ではないか。
そう思ったのだが、佐藤先生は気にすることなく、「まあ、あたしが顧問だしね。好きにやるといいわ」とさらりと許可を出した。
そして、佐藤先生の視線が僕に向く。
僕も書いてきた入部届をすっと差し出した。
「へえ、古河くんも文芸部なんだ。何か書いたりするの?」
そう訊ねられて答えに窮してしまう。
自分はライトノベル作家を目指しているんだと口に出す勇気が無かった。
言ってしまえば、見せてくれと言われてしまうかも知れない。
稚拙で他人に見せられるほどのレベルには全然到達していない。
黙っていると、昼音がニッと歯を見せて、「翼は私が無理矢理引っ張り込んで入れたんですよ。翼も帰宅部よりマシかなって言ってくれて……そうよね?」何度も小刻みの首を振る。
佐藤先生は「仲が良いことはとても良いことだわ」と言うと、受領印を押して受理してくれた。
これで僕らは晴れて、正式な文芸部員となったわけだ。
「校則にも書いてあったけど、部活動継続には四人以上の部員の在籍が必要になってくるの。もちろん今すぐでなくても良い。今年中に見つけてくれれば来年度も更新できるから、探しておくこと。それから……」
佐藤先生は僕と昼音を交互に見やってから、僕の方を指さした。
「部長は古河くんで」
「ぼ、僕ですか?」
「まあ、嫌なら街角さんにするけど……」
その言葉を聞いた昼音が声を上げる。
「面倒くさい会議とか、会計関係が嫌だから、部長は翼でお願いね」
お願いね。
と言われると、僕も断るに断り切れない。
僕は仕方なく承諾すると、部室の鍵の管理の仕方や、会費の支出について、部活動の総会に参加などを要請された。
面倒くさいが、昼音は絶対にやらないと突っぱねているので、文芸部存続には僕がやるしかない。
「失礼しました」と声を揃えて、職員室を後にする。
扉を閉めると、二人して顔を見合わせる。
そして、昼音はにんまりと微笑むと、両手でハイタッチを求めてきた。
ばしんと小気味良い音を立てて両手を合わせる。
「やったわね。これで心置きなく、活動できるわ。佐藤先生もあまり干渉してこなさそうだし、邪魔者はいなさそうね」
「心置きなくって……文芸部だろ。小説を書くんじゃないのかよ」
僕がそう突っ込むと、昼音は右手の人差し指をぴんと跳ね上げ、こちらに突き出した。
「何度も言わせないで。面白いことをやるの。私が勝手にやるから、翼は小説を書いていればいいじゃない」
昼音はそう言うと、ふんふんと鼻歌を歌いながら、文芸部の部室に戻っていった。
この物語は、橋本が橋本に影響力を与えるために、橋本が魂を削って橋本のためだけに物語を紡ぐ小説家を目指す、橋本利一の『インフルエンサーノベリスト』の提供でお送りしました。
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