図書館で菊池さんが『ノルウェイの森』を読んでいる。
この物語は、橋本が橋本に影響力を与えるために、橋本が魂を削って橋本のためだけに物語を紡ぐ小説家を目指す、橋本利一の『インフルエンサーノベリスト』の提供でお送りします。
twitter:@hassiy2
ブログ:『インフルエンサーノベリスト』http://www.hassiy2.com/
図書館というのは、最後の逃げ場所だと思う。
運動も苦手で、太っていて、勉強も苦手で、友達もできない、人と上手くコミュニケーションをとることができない。
そういう状況で、学校という枠組みに囚われた時、このままじゃ僕は壊れてしまうだろうと強く思った。
でも、それは他人には分からないことだ。特に、大人は世の中で言う、良い子を物差しにして、容赦なく測ってくる。
例えば、昼休みに一人で本を読んでいるのに、大人である学校の先生は本を取り上げて、外で元気よく遊んできなさいという。
でも、僕は元気よく外で遊ぶことはできないのだ。
しかし、反論することはできない。
大人はずるいから、綺麗な言葉を盛り付けて、正論をぶつけてくるのだ。
だから、僕は大人が助けてあげるという建前を構えて、手を伸ばしてくる前に逃げることにしている。
逃げた先が、たまたま図書館だったというわけだ。
図書館はいつでも開かれている。
開館から閉館までいても文句は言われないし、本も好きなだけ読める。
読みたい本があれば、家に持って帰って続きを読むこともできる。
夢のような場所だと僕は思う。
だのに、そう思っているのは世の中にそう多くはないらしい。
図書館はいつ来ても空いている。本を借りていく人も、同じ人が多い。
見たことある顔だなと顔なじみにはなるものの、声はかけない。
暗黙のルールのように、誰も喋らない。
良い空間だと思う。
本をじっくり読むにはとにかく、邪魔が入らないことが一番良い。
そんなわけで、僕は今日も本を読みに来た。
学校はサボり。
でも、心配して連絡がくるようなことはない。
行き先が図書館だということは先生も、両親も分かっているからだ。
外では雨が降っていた。
梅雨の時期は、傘が手放せない。
おかげで、本を持ち歩くと湿気で紙が撚れる。
外で、段差に座り込んで本を読み進めることもできない。
嫌な季節だと、ため息を吐く。
透明なビニール傘を畳み、表面に付いた雨粒を払って、入り口に置いてある穴の空いた機械に傘を突っ込む。
すると、温風が出てきて、傘に付いた雨粒を吹き飛ばし、表面をビニール袋で包んでくれる。
これで、傘に付いた雨粒で本が濡れることもない。
「こんにちは」
カウンターに腰掛けていた女性が挨拶をしてくる。
中年のおばさんで、眼鏡をかけていて、緑色のエプロンに、『菊池』と名前の入った名札を下げている。
菊池さんはいつも挨拶はしてくるものの、こちらを気にかける素振りは一切見せない。
視線は手元にある文庫本に向けていて、挨拶の時にちらりと僕の方を見ただけだった。
菊池さんが熱心に読んでいるのは赤い表紙の小説で、『ノルウェイの森』と書かれていた。
僕はまだ読んだことがなかったが、作者が村上春樹だということは知っていた。
テレビでノーベル賞がどうのと騒がれるときに、必ずといっていいほど名前が挙がる人物だからだ。
ノーベル賞というのはとんでもなく凄い賞だ。
そんな賞を受賞するかもしれないと言われているのだから、村上春樹は本当に凄い作家なのかもしれない。
この物語は、橋本が橋本に影響力を与えるために、橋本が魂を削って橋本のためだけに物語を紡ぐ小説家を目指す、橋本利一の『インフルエンサーノベリスト』の提供でお送りしました。
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