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ムーミンパパになりたくて  作者: チュン


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3/6

3、父・渡と

 経営コンサルタント・加藤渡をこれまで支えて来たのは、2つの信条だった。1つは、かつて戦争に負けた、この国に二度と戦争をさせないこと。もう1つは、そのためには一刻も早く、この国が戦後の貧しさから復興を果たすこと。この2つのために、これまで加藤渉は、仕事にまい進して来た。でも、それだけで良かったのだろうか?

 秘書の高木に案内され、拓郎が部屋に入って来た。無言の拓郎に、渡は呆れたように言い放った。

「おまえも家族を持ったんだろ。いつまで無責任な生き方を続けるつもりだ」

 すると拓郎は渡に怒りの目を向けた。

「あなたに家族について言われたくない」

 渡が家族を顧みず、仕事だけの日々を送って来たことは確かだった。一時期だが、外に愛人を抱えていた時期もある。

「確かに私は、家族に悲しい思いをさせたかもしれない。ただ、家族を路頭に迷わせたことは、一度もなかった。そうだろ」

 拓路は渡から目線をはずしたが、渡は続けた。

「今回のこと、百合さんに、ちゃんと話したのか?」

 拓郎は目を伏せたままだ。

「藤谷さんからも話を聞いた。作家になるって?そう聞いて、主だった出版社を調べたが、おまえが受賞した賞などなく、従って、おまえの作家デビューなんて話もない。そうじゃないのか」

 すると拓郎が渡の話を遮った。

「違います。私が文学賞を受賞したのは本当です。ただ、まだ決まってないことも多いから、すべてがハッキリしてから、百合にも話すつもりでした」。

 渡が拓郎と面と向かって話をするのは、何年ぶりだろう。いや、ひょっとしたら、それが初めてのことだったかもしれない。それほど渡にとって家族は遠い存在だった。すると、

「焼け跡になったこの国で生きていくため、そして、この国を二度と不幸にさせないために、私はがむしゃらに働いて来た。今より豊かになれば、何とかなると思っていた。だから、お前にも、幸恵にも、随分、寂しい思いをさせたかもしれない」

 拓郎がこれまで見たことがない感情的な言葉が発せられた。

「だから拓郎、おまえには家族を大切にしてほしい」

 渡に見つめられ、拓郎はしばらく茫然としていた。

「僕が文学賞を取ったのは本当です。でも、まだハッキリさせたいことがありますから、それが分かるまで、もう少し待ってください。それが分かったら、必ずまた、ここに来ます」

 と言って、拓郎が出て行ったのは、どれほど時間が立ってからだろう。その後も渡は、黙って虚空を見つめていた。

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