おさるのシッポとオオサンショウ
う~ん。
それにしても、今日はやけにこけるな・・・。
「アタル、今日はシッポをつけてないからバランスが取れてないんじゃないか?」
リグに指摘されて気づいたが、いつもは水魔法の熟練度を上げるために魔力を通した水をシッポ状にして操っている。
既にシッポマスターといってもいいほどの腕前(シッポ前?)だ。
今日は魔力を通している間、魔力総量が減ってしまうのを抑えるため、シッポはつけていない。
ただでさえぼくは魔力量が少ないからね。。。
ちなみに、リグも普段は砂を、サーマも風を纏って熟練度を上げている。
ヤジルだけは火の魔法は魔力の消費が激しいため、料理や風呂焚きで頑張っている。
以前、魔力の消費を抑えて継続的に熟練度を上げるためにと金属の温度を上げる方法を試して、手に火傷をしていたのは懐かしい思い出だ。
これ以上こけてダメージを負うのは勘弁したいので、ぼくは洞窟の中を流れる川に手を付けて精神を集中すると、呪文を唱える。
《アクアアーマー・テイル》
額の魔石が淡く水色に輝くと、手のひらから川の水に魔力が浸透し、ぼくの腕に纏わりついたかと思うとスルスルと肩から背中を伝って、お尻に猫のような透明なシッポが出来た。
「お猿だ。」
「お猿だな。」
「おさるさん~。」
・・・なんとでも言え。
魔力を半分使い続けるのは少し不安だけど、これですっころんでも頭を打つようなことは無いはずだ。
それほど強力な力があるわけではないが、木の枝につかまって体を支える程度の力と技は備えている。
「魔石で少しは魔力も上げられたし、洞窟も広くなってきたから、僕も少し不測の事態に備えておくかな」
そういうと、リグも川底に手を伸ばし、《サンドアーマー》で手甲、足甲、胸当て、額あてを付ける。
重さで長距離移動には向かないからと、付けるのは控えていたけど、そろそろそういうわけにもいかなくなってきたようだ。
ぼくのピコピコにゃんこシッポとは違い、リグ兄のサンドアーマーはかっこいい。
・・・しかも、なんだか長いこと手を付けていると思ったら・・・。
「えいっ」
リグの気合い一発、サンドアーマーが淡く輝き始めた。
「リグ兄かっこいい!!」」」
ぼくらはちょっと興奮してしまったが、淡くゆらめく蒼い光に包まれたリグはおとぎ話の英雄のようだ。
リグもまんざらでは無いようで、照れながら頭をかいている。
ザバーッ!!
ぼくらが興奮しながらなごんでいると、突然川から大口を開けた魔物がリグに襲い掛かってきた。
魔物は体長が2mもありそうなオオサンショウ。
黒くぬめぬめとした体表に退化した眼球、真っ赤なお腹をさらしてリグを頭からかぶりつこうとしている。
「リグ!!!」」」
ぼくら3人は焦りながらも直ぐに武器を手にして駆け寄ろうとするが・・・
ゴッ
リグは振り向きざまにオオサンショウのアゴを蹴り上げると、サイドステップで横に移動し、回し蹴りでぼくに向かってオオサンショウを蹴り飛ばしてきた。
『ええぇぇ~~~!』と内心驚きつつも、腰を落として槍を構え、オオサンショウの口の中から頭に向かって槍を突き刺す。
槍を折られないように気を配りながら、頭を蹴り飛ばして槍を抜いたところで、横合いから両手で青銅の剣を振りかぶったヤジルが首筋辺りを狙って切り裂いた。
あきらかな致命傷を与えて距離を取ったが、オオサンショウの体はしばらくの間は動いていた。どうやら生命力はかなりのもののようだ。
「リグ兄ケガはない~?」
問題は無さそうだが、サーマが心配して声をかける。
「ああ、サンドアーマーを作っているときから、やつがいるのには気が付いていたからね。
ちょっとスキを見せておびき出してみたのさ。」
・・・わざとだったらしい。
いきなり2mの巨体が飛んでくるのは心臓に悪いので、出来れば先に一言ほしかった・・・。
「そろそろお腹もへってきただろ?川の魔物はおいしいことが多いから、さ?」
確かにそろそろお腹が減ってきた。
でもあのグロテスクな魔物を食べるのか。。。
魔物の方を振り向くと、まだピクピクと動いているオオサンショウの目玉をサーマがくり抜いて、ヤジルが魔石を取り出していた。
ぼくもため息をつきつつ、獲物をさばきに向かった。