VSゴブリン
「・・・ゴャ・・・ゴキャゴキャ・・・・」
少し離れた場所から、話し声が聞こえた気がする。
ぼくは意識を集中して、周囲の気配に注意を向ける。
先程のネズミたちよりも重そうな足音がビタビタと近づいてくる。
2足歩行の生き物が・・・3匹~5匹。
我ながらアバウトだな。。。
こんな洞窟に生息している2足歩行の魔物といえばゴブリンだろうか?
ゴブリンと言えば、今年8歳になるぼくらと同じくらいの背丈の人型の魔物。
今もぼくらを追ってきているように、人型とは言っても人を他の動物と同じく食料としか思ってはいない。
粗末な毛皮の服と、どこから拾ってきたのかそれとも作ったのかもわからない武器を装備している。
ぼくたちなら4人でかかれば1匹2匹なら問題はない。
ただ、武器を持ったゴブリンが同じくらいの数いると、負けることはなくてもそれなりに苦戦してしまうかもしれない。
今回の数だと少々危険があるかもしれないため、すぐにみんなに伝えて対策を考える。
「さすがにゴブリン5匹が武器をもっていたら、危ないな。急いで逃げようか?」
「でもゴブリン5匹程度に逃げてたら、いつまでたっても【竜の谷】にはいけないぞ!」
「たしかにそうだな~。でもゴブリン達が相手なら、せめてもう少し砂のある場所に移動したい。」
リグとヤジルが意見を交換してるけど、ぼくも少しだけ作戦を思いついた。
「ねーみんな。もう少し戻った通路に、壁から崩れたような岩があったはずだから、そこまで戻って・・・。」
思いついた作戦を手短に説明すると、みんな了承してくれた。
ぼくらはゴブリンを相手に、その作戦で戦うことにした。
・・・・・
ぼくらはコウモリやネズミと戦った場所から、天井から落ちてきたように通路の半分程度を塞いでいる大きな岩のある場所まで撤退した。
リグとサーマは辺りの砂を集め、ぼくとヤジルはさっき倒した魔物の死体を岩とは反対側の通路にまとめる。
リグは目をつむって精神を集中すると、小山状に集めた砂に両腕を付けて、呪文を唱える。
《サンドアーマー・アーム》
額の魔石が淡くブラウンに輝くと、腕から砂に魔力が浸透して、リグの両腕には砂の手甲が装着されていた。
「よし。これで木の武器や錆びた武器程度なら受け止められるかな。」
胸の前で拳をぶつけ合うと、にっこりと微笑んだ。
ヤジルもリグと同じように精神を集中し、床に置いた魔物の死体に向けて右腕をかざして呪文を唱える。
《グリル・フレイム》
額の魔石が淡くルビー色に輝くと、腕から炎が噴き出し、肉をこんがりと炙りだす。
辺りに香ばしい匂いが充満すると、炎を止めて腕で汗を拭う。
「こいつら、以外といい匂いしやがるな・・・。」
教会のマザーに料理の薪代わりにこき使われていた腕が、こんなところで役に立ったようだ。
みんなで岩陰に隠れると、ぼくとサーマも呪文を唱えゴブリン達が現れるのを待った。
《ダークネス》、《ウィンド》
岩陰が影を濃くしてぼくらを覆い、風がぼくたちの臭いを留めて周囲に漏れるのを防ぐ。
ぼくらは手早く岩陰に隠れると、ゴブリン達が現れるのを息を潜めて待った。
既にゴブリンが現れたら襲う手順も話し終えている。
ゴブリン達に向かって右からサーマ、ヤジル、リグの順番で相手をする。
ぼくは念のために岩が陰になって見えないところに敵が残っていないか確認し、ゴブリンがいたらそいつの相手をする。
いなければ、その場に応じて槍でのサポートだ。
・・・
間もなく、緑色の肌をした子鬼達が棍棒や錆びた短剣を持って迫ってきた。
緑色の個体に混ざって赤黒い個体も1体ほどまざっている。
あれが話に聞く上位体というやつだろうか?
上位体は通常の個体よりも能力が高いと聞いたが、見た感じでは肌の色以外の違いは見当たらなかった。
ゴブリン達はやってきた勢いのまま、ゴギャゴギャと叫びながら香ばしい匂いを放つ魔物の肉に突っ込んでいった。
作戦は完全に成功したように見え、内心ガッツポーズを決めていたが、一番後ろにいた赤黒い個体は何かをハッと思い出したように周囲を見渡し、こちらを向いた。
・・・バッチリ目があってしまった。
う~ん。闇魔法で見辛くなっているはずだけど、、、
そもそもやつらが追いかけていたのはおいしそうに焼けた肉ではなく、生きているプリティーなぼくら。
どうやらゴブリンにも獲物を思い出すぐらいの知能はあったようだ。
気づいたゴブリンが「ゴギャ!」っと叫んだが、こちらは既に駆けだしている。
ぼくは岩から陰になっている部分を一瞥し、他の敵がいないことを確認すると振り向き様に剥ぎ取り用のナイフを赤黒いゴブリンの顔に向かって投げ付けた。
リグ、ヤジル、サーマの3人は、武器も放り出して肉に向かっている4匹のゴブリンにバックアタックを仕掛けている。
ぼくは赤黒いゴブリンに集中し、顔にナイフが迫って焦っているところに、足を狙って槍を突き刺す。
顔のナイフは盾で防がれてしまったが、足の脛には深々と槍が突き刺さった。
すぐに槍を抜いて次の攻撃に備えたが、相手も傷つきながら体勢を整えたようだ。
左膝をつきそうになっているが、他の個体と違わないように見えた上位体。
よくよく見るとこいつはかなり筋肉が太く、・・・顔も怖い。
近寄らせたくない!!
さすがに力勝負になると分が悪そうなため、顔と右足を狙って牽制の攻撃を放つ。
しかし相手も戦闘経験は豊富なのか、危なげ無く盾で裁かれ、徐々に岩側の壁に追い詰められる。
ぼくはパニックになったように大声を出しながら槍を突き出すが、簡単に盾と剣に弾かれてしまう。
ゴブリンが盾を構えながら追い詰めたぼくへ剣を大きく振りかぶったとき、
「ゴッ」 バキッ」
鈍い打撃音と木の割れる音と共に、ゴブリンの頭が大きく横にブレて、白目をむいた。
すかさずぼくは喉元に槍の穂先を突き刺して、トドメを指す。
サーマは自分の指定された相手を素早く後ろから殴り倒し、ぼくのサポートに駆けつけてくれた。
ぼくはサポートにくるサーマをゴブリンに気づかれないよう、大声を出して気を引きつけ続けていたが、どうやら上手くいったようだ。
大声を出したのはあくまでもサーマを気づかれないようにするためだ。
本気でゴブリンが怖かったわけではない。
無いったら無い。
リグとヤジルも問題無く残りの3体を仕留め終わったようだ。
サーマが殴り倒したゴブリンも、ヤジルが念のために首にショートソードを突き刺している。
・・・・・
さて、ゴブリン以降は追っ手もいなかったようで、少し戦利品を整理しようと思う。
「まったく。誰かさんが急に大声で叫んだせいで、大変な目にあったぜ。」
「いや~。今回はちょっと大変だったね。」
「命の危険を感じました~。」
・・・少し戦利品を整理しようと
「多少びっくりしても仲間を危険にさらすわけにはいかねぇよなぁ。」
「僕らは今まで少数を囲んで倒すようにしてたからね。
特にゴブリンは体格もよかったし、マザーを思い浮かべて心を落ち着かせていなかったらパニックを起こしてたかもしれないよ。」
「命の危険を~感じました~。」
「・・・しかたないだろっ!
隠れて息を殺してるときに急にスライムが背筋に落ちてきたんだから!」
みんなに責められて、既にぼくは涙目だ。
ヤジルのいう通り、今回魔物に追いかけられたのはぼくに原因がある。
この先の洞窟が開け始めた場所でこの先の進み方について隠れて話し合っていたときに、ぼくが急に大声を出したせいで魔物たちに気づかれ、ダッシュで逃げ出す羽目になってしまった。
「・・・でもゴメン」
とりあえず小さい声であやまっておく。
「まあ、みんな無事だったし、戦利品もあるから問題ないかな?」
「おれは最初から逃げなくても勝てると思ってたけどな」
「スライムがくっついたところは大丈夫?」
なんだかんだで文句をいいつも、本気で怒っている訳ではない。
みんな基本的に身内にはやさしい。
「ちょっと首筋がヒリヒリするんだけど、見てくれる?」
サーマが後ろからぼくの首筋をのぞき込む。
「ちょっと皮膚が溶けてるところがあるけど、大したことはないかな?
洞窟に入る前に作ったポーションがあるから、ちょっと待っててね」
そういうと、鞄の中からいくつかの小分けにされた革袋を取り出し、薬草の葉脈の見える緑色の液体の入った革袋を見つけると、ぼくの首元に振りかけてなでつけてくれた。
シューっという音と共に、首筋の痛みが引いていく。
お礼を言うと、「ぼくの仕事だからね~」と微笑んでくれた。
さて、今度こそ戦利品を整理する。
・ケーブバットの羽
・バットのバット(ゴブリンを横殴りにしたときに砕け散った…)
・ネズミのしっぽ x 5
・ネズミミ x 3
・ネズミの角 x 2
・錆びた短剣 x 2
・棍棒 x 2
・錆びた青銅の剣
・錆びた青銅の盾
・小さな魔石 x 1
・屑魔石 x 10
装備はあんまり使えるものが無いけど、錆びた短剣は投擲用に使えるかな?
ヤジルが青銅の剣を掲げてニマニマしてるけど、どうみてもデカいだろ!
子供のヤジルが手にすると、もう見た目がラージソードだ。
ラウンドシールドがつかえなくなるからおとなしくショートソードで戦ってほしいが、青銅の盾と合わせて背中に背負って行くつもりのようだ。
サーマは砕けたバットの代わりに棍棒を振り回して使い心地をためしているが、バットほどしっくりこないようだ。
魔石については、洞窟の入り口で透明な【モノリス】から人数分入手した【ヴァラ・カード】にくっつけると、魔素の内臓量を表示してくれる。
赤黒いゴブリンから摘出したものが魔素量11、ゴブリンリーダーの魔石と表示されている。
ネズミやコウモリ、ゴブリンから摘出したものは2~3、4、4~5程度の魔素量だった。
「それじゃあゴブリンリーダーの魔石はサーマに預けて、残りの魔石はみんなで分けようか?」
「それでいんじゃね?」
「異議なっし」
「問題ないよ~」
特に問題もなく、みんなで魔石を分け始める。
「みんな、魔石は魔素吸収するの?」
「そうだね。今は少しでも能力の底上げをしておきたいから、吸収してしまうよ。」
「あったぼーじゃん。今回の探索で卵をゲットしちまわないとそろそろイニシエィションの期間がおわっちまうからな~。」
「調合用に取っておきたいとも思うけどね。ポーション用には小さな魔石をもらったから、自分用の魔石は吸収させてもらうかな~。」
そういうと、みんな目をつむって魔石を額の魔石【ソウルストーン】にくっつけて《マナ・ドレイン》とつぶやく。
薄く輝く暗い光の粒が、ソウルストーンに吸収されていくと、手元の魔石は崩れていった。
・・・ちなみにぼくのソウルストーンはクズ石。
吸収できる魔素の総量も小さく、もう上限値まで吸収はし終わっている・・・。