雨宿り
この物語はフィクションです。
もう何日目だろうか、
今日もまた雨が降ってる。
傘を持つのは、
もう日常的になっていた。
いつものように、
朝の7時に起きる。
そんで歯磨いて、
顔洗って、
飯食って、
着替えて家を出た。
『いってきます』なんて、もう何年も言ってない。
久しぶりに袖を通した
学ランは、なんだかまだずっしり重い。
何年も乗ってる自転車に渋々腰をおろした。みんなはママチャリに乗ってて自分だけTチャリなんて、ダサいと言うやつもいるが、僕は愛着があって、なかなか捨てられない。
傘をさしながら、またいつものようにあいつの家に向かった。
ピンポーン…
ピンポーン…
あれ…
何してんだよ
玲のやつ…
いつもなら、もう家の前に立っていて、すぐに学校に向かってたけど
今日はいなかったから、おかしいと思ったけど…
しかたない…
今日は置いていくか…
電話するほどの事じゃないしな…
僕は、付けていた
イヤフォンをまた耳に
戻し、学校に向かった。
今日はいつもより
学校につくのが
遅かったせいか、
不良っぽい生徒が
たくさんいた…
僕は普通の高校生だ。
どこにでもいる
普通の高校生。
もう今年で3年生
実感がわかないのは、
部活にも入ってなかったし
恋もろくにしてなかったからだと思う。
勉強は人並みにできる方だ。
僕の教室は
3年C組だ。進学したい人達が集まってるクラス。
盛り上がりには欠けるが、勉強するには
なかなかの環境だ。
教室に入ると
もうみんな席についていた
担任の笹川は
まだいない…
たすかった…
今日は欠席がいないみたいだ、
ん……??れん?
『なんでれんがいるの!?』
『おー!巧じゃん!わり!今日さ、早く学校きて、わかんないとこ先生に聞こうと思ってさ!ごめんな!』
『連絡ぐらいしろよな…』
ボソッと呟いた…
キーンコーンカーンコーン………
今日は授業が長引いたせいで、外は薄暗くなっていた。
自転車置き場に戻ると
僕の自転車がなくなっていた………
『朝、急いでて鍵かけんの忘れたんだった…』
今日は
仕方なくバスでかえる
事にした。
バス停までは
だいたい10分くらい
歩いたとこにある。
相変わらず
雨が降っていたから
母さんの花柄の傘を
いつもどおりにさしながら
バス停に向かった。
今は5時20分、
次のバスは…………
……6時か……
空はすっかり暗くなっていた。バスを待つ小さな小屋が
あったから
そこで雨宿りをすることにした。
しかし中には先客がいた…
同じ高校の生徒の
女の子だ。
なおさら入りづらい…
ふと目が合ってしまった
ビックリしてとっさに
そらした…
『可愛い傘ですね!どうぞ?』
『え!?あ!はい……』
僕は傘をたたんで
狭い小屋に二人で
雨宿りをしながら
バスをまつことにした。
『失礼します…』
申し訳なさそうに入った。
『…あの……もしかしてC組の巧君?』
『え?…はい……なんで名前を?』
『その花柄の傘で一部では有名人だよ!!』
やっぱりまずかったか…
『ところで君は……』
『あ!ごめんさい!私、E組の藤村かりあっていいます!よろしく!』
『かりあちゃんか…はじめまして聞く名前だけど、いい名前だね!』
…E組…ってば就職クラスだな、すごい真面目な感じで、
頭も良さそうなのに
意外だな
『……巧…君?』
『…あ!ごめんさい、少しぼーっとしちゃって』
『変わった人だね!』
かりあさんは
クスクス笑いながら言った
話しこんでいる内に
バスがきた
来てしまった。
僕はバスにのったが
かりあさんは
次のバスに乗るらしい
『また学校でね!』
かりあは手を小さく振りながら言った
『うん、またね…』
この小屋さえなければ
こんなに
こんなに
苦しい思いをすることは
多分
なかったんだろう……
夜になって
アドレスを聞けばよかったと、少し後悔してる。
あんなに女の子と
話したのは
もしかしたら初めてかもしれない
そんなことを
考えるうちに
いつの間にか
僕は眠りについていた。
次の日…
空は久しぶりに
晴れ模様だ
太陽が
いつもより
おおきかった気がした
今日は
玲から
具合が悪いから
休むと連絡が入っていた。
久しぶりにまっすぐ
学校に向かった。
正門の前には
先生達が何やら
一つひとつ
生徒の自転車を覗いている
いつものように
正門を通ろうとしたら
『待ちなさい』
思わず返事をした
『はい…なんですか?』
一体なんだ……
『スッテカーは?何処に貼ってるの?』
…しまった!
今日は
自転車点検日だった…
そういって
先生達の説教を
受けていると
小走りで玄関に
向かう
かりあちゃんがいた
僕に気付くと
にっこり笑って
すこし舌をだして
学校に入った
『こら』
『すいません…以後気をつけます』
朝から
気分がいいような
悪いような……
午前中の授業を終えて
昼休みになり
購買にパンを買いに行った
いつも食べているパンが
なかったから
仕方なく
あんぱんで我慢した。
教室に戻る途中
かりあちゃんが
廊下に一人で
立っていた。
気付かれないように
教室に入ろうとしたけど
普通に気付かれた
『巧くん!』
声がでかいよ!…
『…何?』
『お昼一緒に食べない?
どうせ巧くんいつも一人でしょ!』
なんでしってんだよ…
『…うん!いいよ!』
僕たちは
非常階段に向かった
それにしても
緊張する……
女の子とご飯なんて…
かりあちゃんは
自分で作った弁当を
食べ終わると
『…ねぇ…巧くんて、好きな人とか…いる?』
いきなりだった
てゆか、んなこと
考えた事もなかった…
『え!?いない!かな…』
『いないんだー!』
なんだか
嬉しそうだった
『今日は晴れちゃったねー』
『なんで?晴れたほうが
いいと思うけど…』
『だってまた雨宿り小屋で巧くんと話したかったもん!』
変な冗談だと思い
軽く笑って
手を後ろに着いた。
『そろそろ時間だよ?』
時計も見ないで言った。
やっぱり
緊張はとけなかったから
『そうだね!…またね!』
かりあちゃんは
そそくさと教室に戻った。
そういえば
出会った場所はバス停の
小屋か…
不思議な感じがした。
5時間目が終わった後
なんとなく
かありちゃんの教室の前を通った
なにやら荷物をまとめている。
つい声をかけてしまった。『どうしたの?』
どうやら
僕から声をかけられたのに驚いたらしく
『え…あ…早退するんだ。』
『大丈夫なの?』
『平気だよ!迎えきてるから帰るね!バイバイ!』
僕は軽く胸元で手を振った。
かありちゃんが
教室をでた後
知り合いの男が言った
『あいつ、ここ最近かなり早退してるぜ?あんなにぴんぴんしてんのによ』
絶対に何かあると思った。
でも原因がわかんないから
なんか
もやもやしたままだ
明日から
三連休か……
でもかりあちゃんとは
連絡とれないし…
土曜日
なにやら
だるい
寒気もする
とりあえず病院に行った
診察を待っていると
まさか
かりあちゃんだ…
すぐに声をかけた
『かりあちゃん!』
こっちをみて
近づいてくる
『大丈夫?』
『風邪引いちゃったみたい!』
相変わらずの笑顔
『そんなことより…巧君?……』
改まった様子で
何か言いたそうだった
『何?』
『私と付き合ってくれない?』
頭ん中が真っ白になった
『………』
『やっぱり…ダメ…かな?』
初めての告白だった
てか、されるなんて…
『僕なんかでいいの?』
『巧君がいいの…』
真っ赤にした顔で言った
『…よろしくお願いします………』
彼女はにっこり笑った
『アドと番号…交換しよ?』
やっと聞けた…
『そうだね!』
それぞれの
アドレスと番号を交換し
僕は診察に呼ばれた
その夜
かりあちゃんからの
電話
『もしもし?』
『巧君だ!』
『あぁ…こんばんは…』
何を話せばいいかわかんなかった
『あのね…私、明日から学校行けないんだ…』
『え?なんで?』
『私、病気なんだ…』
『そっか…………』
『ごめんね遅くに!眠いみたいだから切るね!おやすみ!』
『おやすみ…』
プープープー………
本当は
また学校にきて
いつものように
笑ってくれると
勝手に思ってた
自分勝手に
ただ…笑ってくれると…
日曜日
今日は雨
かりあちゃんの
お見舞いにいくことにした。
東病院に入院してるらしい
さすがに自転車ではいけない距離だ
何かプレゼントを持っていこうと思い
駅前で
カップルっぽく
お揃いの指輪を買った
中には
『I want You』
と書いてある
指輪をもって
病院に向かう
数分後
病院についた
『藤村さんは何番ですか?』
『331です』
『どうも』
静かに病室にはいった
『やぁ』
かりあちゃんは
驚きを隠せずにいた
『本当にきたの!?』
『心配でさ…』
『うれしい!!ありがとう!!』
指輪を渡した
『え?くれるの?』
『プレゼント』
『ありがとう!!指輪だ!』
『お揃いだよ』
『すごーい!でもちょっとおっきい…!!』
指のサイズなんて頭になかった……
『ごめんね…』
『ううん!!大切にする!ありがとね!!』
『藤村さん、診察の時間ですよ』
看護士さんは
僕に軽く笑顔で
一礼した。
『……はい…今行きます』
看護士さんは
静かに病室をでていった。
『本当に大丈夫なの?』
かりあちゃんは
下を見ながら
重そうな口を開いた
『死んじゃうかも…あたし………』
冗談だと思った。
でも
かりあちゃんの顔を見たら
確信した……
『大丈夫………僕が……………守るよ…君を……』
慣れないクサイセリフが
自然に口からこぼれた。
かりあちゃんは
クスクス笑いながら
『ありがと!!』
ただその一言
まさか
最後の会話になるなんてな………
守るって言ったばっかりなのにな………
情けないな……
俺って男は……
かりあちゃんは
診察室に点滴を
片手に掴みながら
ゆっくり
向かっていった
予定よりも
早くお見舞いが
終わったから
寄り道しようとも
考えずに
家に帰った。
自宅について
しばらくして
急な電話
嫌な予感は
的中してしまうんだよな…
登録にない番号だった
プルル……プルル……
なんだか不安になったから
つい出てしまった
『藤村さんが…危険な状態にあります!!これるのであれば今すぐに東病院に来て下さい!!』
相手が
誰なのかも確かめないまま
僕は病院に向かった。
外は雨が降っていた
傘なんてもたずに
駅へ向かった
病院につくと
かりあちゃんの病室に
来た
あの看護士がいた
『突然のお電話すみませんでした。そんなことよりも、藤村さんは今、集中治療室で手術中です。』
『彼女は、かりあちゃんは助かるんですよね!?』
『……………』
『…え?助からな…いんで…す…か?』
『…………』
『正直に言ってくださいよ!!』
『助かる確率は極めて低いです……』
不安で一杯になっていた
気持ちが
一気に溢れて
涙が止まらなかった…
けど
まだ諦めない
助かる
絶対に助かる
かりあちゃんが
手術をしてる間、
あの看護士と
少し話した
『あの…電話番号は………』
『藤村さんがね、もしもって時に電話して下さいって頼まれてたんですよ』
『…ありがとうございます。……かりあちゃん……助かりますかね……』
『信じていれば…きっと助かります。だから信じましょう。それしかできませんから。』
『ですね……。』
沈黙が続いた
『藤村さん……指輪してましたよ……声を出すのも精一杯なのに、これだけはって言って。』
また涙がでそうになった。
『初恋の相手なんですよ…初めて心を開けた相手なんです……』
『……あなたは、もし藤村さんが死んでしまっても、彼女を愛しつづけますか?』
『……わかりません………ただ…』
『……?』
首をかしげる看護士
『一生忘れません』
それからしばらく
手術室のランプが
消えて
担当員がでてきて
首を横にふった
僕は静かに
かりあちゃんの
元へ行った。
顔は白くなっていた
手を握ると
指輪がなかった……
その指輪は
逆の手の中で
しっかりと
握られていた
帰りは
電車よりも
ちょうどいい時間帯に
あったバスで帰ることにした
乗り込むと
乗客は一人もいなかった
しばらく進むと
あのバス停についた
ピンポーン
バスを降りて
あの小屋に入る
雨は相変わらず
降り止まない……
「ありがとう…」
何処からか
雨の音に重なって
響く声が聞こえた……
空耳かもしれなかった
でも
信じたかった
だから
僕は言った
『また…会おうね……』
I want You
最初に出会ったのも
最後に別れたのも
雨の日でした。
『また…会おうね…』