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ORDER‐OFFICE 101 ―治安局101分署―  作者: キュノスーラ
第5章  「オールト・ビル」
23/30

準備は着々と進行中

「えーと、えーと……え? あっ……いた! いました! 人質、確認しましたっ!」


 仮設捜査本部コーヒーショップの片隅のテーブルでモニターに張りついていたゼファが叫ぶと同時、その場にいた捜査官たちが一斉に集まった。

 ゼファの前に置かれたモニターには、4つの小型ウインドウが開かれている。

 そのひとつひとつには、様々な室内を真上から見回した様子が映し出されていた。

 映像はそれぞれ10秒ほどで暗転し、しばらくその状態が続いたか思うと、不意にまた別の室内の様子が映し出される。

 どの画像に映っているのも、オールト・ビルの内部にある部屋の様子だった。


 これらの画像はすべて、ゼファ手製の超小型カメラによって、リアルタイムで撮影されているものだ。

 ゼファに与えられた任務は「犯人グループ及び人質の位置と状況を確認すること」。

 そのために彼が放った「移動式超小型カメラ」は、1機ではなかった。

 ただの1機で、ビル全体の全ての部屋をひとつひとつ確かめていくようなやり方は、あまりにも非効率的で、シビアなタイムリミットの中ではほとんど役に立たない。


『これですよ!』


 と、先刻、彼が嬉しそうに開けてみせた薄いケースの中には、ひとつひとつが小さな羽虫のような姿をしたカメラたちが、縦横にびっしりと並べられていた。

 まるで血液に混じったウイルスのように、換気用ダクトを通じてオールト・ビル内全域に侵入した小型カメラバグたちは、自分がまだ通っていないコースをオートで判別して選択し、さらに、明るさの違いを感知することで撮影ポイントである換気口にとまるという高度な「判断能力」を与えられていた。

 口吻を模した細いレンズ部を換気口のカバーの隙間から突き出し、一定時間、室内の様子を撮影してから、再び移動するようにプログラミングされているのだ。


 だが、ゼファは、手練の密偵たちを送り出した王のように泰然としていられるわけではなかった。

 小型カメラバグたちは、ただ明るい場所を見つけては止まり、撮影し、映像を送信してくるだけだ。

 映し出された映像の中に、何らかの異変を見出すのは、人間の役目なのである。

 ひとつの部屋の内部が映し出される時間は、およそ10秒間。

 映し出された手がかりをうっかり見落とせば、おそらく、次はない。


 放たれた小型カメラバグの数は32。

 8つのモニターが、それぞれ4つの小型カメラからの画像を受信する。

 捜査官たちは手分けをして各モニターにはり付き、徹底的に監視していた。


 オールト・ビルに入っているとされていた全ての会社事務所はダミーであり、内部はほとんどどこもがらんとした空室だったが、捜査官たちはこれまでに、1階と2階に各4人ずつ詰めている、計8人の武装した男たちの姿を見出していた。

 だが、その中に主犯であるはずのクアン・デルトロの姿はなかった。

 人質の姿もなかった。


 小型カメラたちはさらに階を上昇し、捜査員たちは空室の端に動くものでもないかと目を皿のようにしながら当たりを待っていたのだが、運命の采配か、それは、ゼファのモニターに訪れたのである。


「間違いない! ターニャ夫人と、娘のフアナだ」


「無事だったか」


「主犯もいるぞ!」


 ゼファの背後から、組犯の男たちが口々に呟いた。

 映し出されているのは、社長室のような豪華な内装の部屋だ。

 その片隅の床に母子が座らされ、すぐ側に巨漢の見張りがついている。

 窓を背にして大きなデスクがあり、そこに、クアン・デルトロらしき人物がついていた。


「この部屋は、ビル内のどこだ。正確な位置は!?」


「えーとですね……」


 イグナシオからジェイドを経由して送信されてきた別ウインドウの画像――オールト・ビルの構造図と、小型カメラが移動した軌跡の記録を慎重に重ね合わせ、やがて、ゼファは大きく頷く。


「これはD3カメラですから、えーと、30階……いや、31階。うん、間違いない、31階です! ここ、ですね。31階、南側、中央ちょい東より。図面の、この位置です! 課長、連絡お願いします!」


「任せろ」


 仮設捜査本部コーヒーショップのカウンターにラップトップを並べて陣取ったジェイドが、ゼファから送信されたデータを、それを必要とする各員に転送する。

 今回の作戦において、全ての情報はいったんすべてジェイドのもとに集約されることになっていた。


 各自が全く異なるアプローチで、だが、完璧に足並みを揃えながら、各方面から犯人たちを追い詰めていくのだ。

 現場同士で勝手なデータのやり取りをしていては、どこかで致命的な連絡の漏れや行き違いが生じてしまう。

 部下たちから絶え間なく上がってくる画像、音声、文章による大量のデータを、ジェイドは完璧に把握し、分析し、判断し、捌いていた。

 その手際は、一種美しいとさえ言えるほどのものだった。


「モーリー1班、こちらジェイド・フォスター」


『フォスター捜査官、こちらモグラくんモーリー1班どうぞ』


「イグナシオ・ファウ捜査官の作業の進捗状況は? 突入班にゴーを出せる状況まで、どの程度かかるか」


『ファウ捜査官との会話は、現在、不可能。極度に集中している模様……』


「ありがとう、了解。突入エントリー可能な状況になれば即、連絡を。通信終了アウト


 音を立てずにマイクをオフにしたジェイドは、カウンターから身を乗り出した。


「ゼファ、小型カメラのバッテリは、あとどの程度もちそうだ?」


「えーと、あと16分43秒。42、41……」


「了解。では現在、犯行グループのメンバー、および人質を捉えている小型カメラは、そのまま定点撮影を続行。小型カメラA1から3、およびB3、4、C2を、人質を映しているD3カメラに合流させ、一時停止状態に」


『あーはい、了解です! D3カメラの移動の軌跡をトレースさせますね。その後、一時停止スリープに入り、バッテリを温存。D3カメラのバックアップとします』


「よし。今回、現場のリアルタイムの映像があるかないかは死活問題だ。必ず、映像を送り続けろ。その作業が完了次第、他の犯人グループを捉えているカメラにもバックアップをつけてくれ。

 ――こちら、ジェイド・フォスター。ギア、カース、そちらの状況はどうか?」


『こちらギア・ロックだ。只今、カース・ブレイド捜査官、およびモグラくんモーリー2班とともに、地下排水設備への侵入口を確認。待機中だ。いつでも突入エントリー可能』


「了解。現在、イグナシオがお前たちの侵入経路を目隠しマスキングするための準備を進めている。こちらが突入エントリーをコールするまで、引き続き待機せよ。通信終了アウト


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